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積み重なる進化: BOSS LOOP STATIONの歴史を辿る

RC-20が音楽シーンに登場して四半世紀、BOSS LOOP STATIONはミュージック・シーンの異端児や既成概念を打ち破ろうとするアーティストにインスピレーションを与えてきました。

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この世に現れるやいなや、文化的なムーブメントを巻き起こしたLOOP STATION。2024年のいま、このシリーズが存在しなかった音楽シーンを想像することは困難です。21世紀で屈指のこのゲーム・チェンジャーについて深く知るには、時計の針を2001年まで巻き戻す必要があります。世界中のステージで予期しない現象が起こり始めたこの年を起点に、LOOP STATIONの物語に潜ってみましょう。

RC-20XL

まるで魔法

2000年代の初頭、BOSS LOOP STATIONによるパフォーマンスを初めて目の当たりにしたとき、まるで魔法のように感じたオーディエンスもいました。楽器やマイクを手にしたソロ・パフォーマーが立っているだけで、バッキング・トラックが流れている訳でも、舞台袖にバック・ミュージシャンが隠れている訳でもありません。一人でギターやビートボックスを奏でながら、どのようにしてリズム、リフ、ビート、ボーカルが波のように重なっていくシンフォニーを生み出しているのでしょうか?

BOSSの誕生から半世紀が経つ中で、その答えが足元にあることは初めてではありません。ツイン・ペダル・シリーズの1つとしてリリースされた黒と赤の武骨なユニット、オリジナルのRC-20 LOOP STATIONは、単なる音作り用のエフェクターでなく、それ自体が楽器であり、パフォーマンスに全く新しい概念をもたらすものでした。フレーズを録音し、それを再生しながら、リアルタイムで2つ目のフレーズを重ねる。シンプルなコンセプトでありながら、無限の可能性をもたらしたのです。

「2000年代の初頭、BOSS LOOP STATIONによるパフォーマンスを初めて目の当たりにしたとき、まるで魔法のように感じたオーディエンスもいました。」

ゲーム・チェンジャー

その当時は知る由もありませんでしたが、2024年、現代を生きる私たちにとってLoop Stationsとは、ギタリスト、ビートボクサー、作曲家、パーカッショニストたちに愛用され、豊富な機能を備えたDAW対応のツールであり、活発なオンライン・コミュニティが存在する1つのカテゴリです。これはただの風変わりな新製品ではなく、新たなゲーム・チェンジャーの登場だったのです。

このシリーズに熱烈な支持を寄せる、スイス発の世界最大のビートボックス・コミュニティSwissbeatboxの創設者Andreas “Pepouni” Fraefelは、「LOOP STATIONは、アーティストが自己を表現する全く新しい方法を切り拓いた」と、当時を振り返り、「多くのアーティストが、このシリーズでキャリアを築くことに成功していった。」と語ってくれました。

「LOOP STATIONは、アーティストが自己を表現するための全く新しい方法を切り拓いた」 Andreas “Pepouni” Fraefel

Robert Fripp
Jim Summaria

ループ・パフォーマンスのパイオニアたち

RC-20の登場までに、前例がなかったわけではありません。1963年まで振り返ると、アメリカのジャズ・ミュージシャンTerry Rileyが「Music For The Gift」の中でテープを使ったループ・パフォーマンスを披露しています。70年代の前半には、ギタリストRobert FrippとプロデューサーのBrian Enoにより、Frippertronicsと呼ばれる、2台のオープンリール・テープ・マシンを使って音を重ねていく手法が確立されていました。

しかしこの時点では、ルーピングはプロによる高価な機材を使った一種の「グリッチ」奏法に過ぎず、手頃な機材を使って頻繁に行われるようなテクニックではありませんでした。90年代に最初のペダル型のルーパーが登場した時も、まだ粗削りで信頼性が低く、ライブ・パフォーマンスを向上させるというよりも、一部のチャレンジャーが実験的に試してみるようなものでした。

「1963年まで振り返ると、アメリカのジャズ・ミュージシャンTerry Rileyがテープを使ったループ・パフォーマンスを披露しています」

大きな賭け

BOSSは、80年代半ばにはすでにDSD-2、DSD-3 Digital Sampler / Delayという2つの製品によりデジタル・ループに先鞭をつけていました。21世紀が幕を開け、自らの手で音楽シーンを作り上げようとするアーティストたちの波が押し寄せる中、彼らの要望に応えるビジョンと必要な技術を持っていたBOSSは、5分という長時間録音、オーバーダブ、リアルタイムでのテンポ変更、AUX入力、さらにサンプラーとしての用途やバッキングの保存にも役立つ11個のメモリーなど、当時としては前例のない機能を備えた製品にファンが付くことを確信し、大規模な投資に踏み切ったのです。

この賭けは功を奏し、新たに生まれたコミュニティはRC-20に夢中になり、すぐにその次を求めるようになりました。2004年に発売され、16分のレコーディングが可能となったRC-20XLは、当時10代だったEd Sheeranを世界的スターの道へと導きました。2006年発売のRC-2 はその技術をコンパクト・ペダルに凝縮し、RC-50は3トラックへの対応でルーピングの可能性を広げています。

イギリスの音楽情報メディア「MusicRadar」は次のようなレビューを残しています。「つい数年前まで、明らかに異端で実験的なマシンだったループ・ペダルが、瞬く間にメインストリームへと躍り出た。これを見て他のメーカーも競争に参入してきたが、RC-50が最も洗練された、オールラウンドなルーパーだ」

Ed Sheeran
Ed Sheeran, Photo by Jim Summaria

「2004年に発売され、16分のレコーディングが可能となったRC-20XLは、当時10代だったEd Sheeranを世界的スターの道へと導きました」

KT Tunstall
Kirk Stauffer

次のマイルストーン

2011年にBOSSはシリーズ10周年を祝うとともに、第1回LOOP STATION World Championshipsを開催。その年に発売されたRC-3は、コンパクト・ペダルの実用的なサイズはそのままに、3時間のステレオ・レコーディング、99のメモリー、コンピューターへのUSB接続端子が追加されました。同じく2011年リリースのRC-30は専用フェーダー、内蔵エフェクト、複数の楽器に対応する2つのステレオ・トラックによって、Kurt VileやKT Tunstallといった多くのアーティストを魅了しました。

スコットランドのシンガーソングライターであるTunstallは当時、「15年間まったく同じペダルボードを使い続けてきたけど、とうとう作り直すことにしたの」と述べています。彼女はイギリスの音楽テレビ番組「Later With Jools Holland」に出演した際、「Black Horse And The Cherry Tree」でループ・パフォーマンスを披露し、一躍脚光を浴びました。「これからはRC-30と、下を向かなくても安心して踏める大きなスイッチがある、BOSSの最高のエフェクターをいくつか使うことにしたわ」

「9000万枚以上のレコード売上を記録したポップ・クイーン、Ariana Grandeの活動初期の写真には、彼女がRC-300を使用している姿が写っています」

ポップ・クイーンとLOOP STATION

しかし、2011年に発売されたLOOP STATIONシリーズの中でもっとも衝撃的だったのは、RC-300でしょう。3系統のステレオ・トラックとエクスプレッション・ペダルを搭載した当時のフラッグシップ・モデルとして、世界中のスターたちのセットアップに採用されました。

9000万枚以上のレコード売上を記録したポップ・クイーン、Ariana Grandeの活動初期の写真には、彼女がRC-300を使用している姿が写っています。Vevo社のクリエイティブ・ディレクターであるEd Walkerは、Insider誌の取材に対し「ルーパーは彼女が子供の頃に手にした楽器のひとつで、当時からボーカルをループさせて作曲をしていました」と後に語りました。2021年には Ariana GrandeはRC-505を用いるようになり、ヒットソング「Positions」で幽玄なボーカル・ループを披露しています。

一方で大西洋の反対側では、スコットランドのシンガー・ソングライターGerry Cinnamonが、RC-300を愛用することになった経緯をFace誌に語ったことがあります。「持っていたエレキギターを全部売って、その金でループ・ペダルを買ったよ。自分ひとりで全てのサウンドをコントロールできるなんて、最高にクールだと思ったんだ」

Ariana Grande
Ariana Grande

「持っていたエレキギターを全部売って、その金でループ・ペダルを買ったよ。自分でサウンドをコントロールできるなんて、最高にクールだと思ったんだ」

RC-1

たゆまぬ進化

その後もLOOP STATIONは進化を続け、2014年には基本コンセプトに立ち返った(そしてMusicRadarによれば「大成功を収めた」)RC-1を、2019年には280以上のリズム・パターンと16種類のドラム・キットを携えた RC-10Rを新たに加え、いずれも高い評価を得ています。

テーブルトップの時代

2013年、ボーカリスト、作曲家、DJ、ビートボクサーなど、手元で機材を操作したいユーザーをターゲットにした卓上型ユニット、初代RC-505の発売によって、LOOP STATIONにとっての新たな時代が幕を開けました。RC-505が登場したその年に、Swissbeatboxが主催する大会の種目に初めてルーパー部門を加えたことは、決して偶然ではないでしょう。Pepouniは「RC-505の登場は画期的な出来事だった」と当時を振り返ります。

RC-505は、ミュージシャンがギターを弾くのと同じくらいコンピューターを起動させることが多くなっていた当時の潮流をしっかりと捉えていました。ルーパーがプロのデジタル・レコーディング・セットアップの心臓部になり得ることを、世に知らしめたのです。自在なMIDIコントロールやUSB経由でのWAVオーディオ・インポート機能により、この最新鋭のLOOP STATIONは、DAWソフトウェアやその他の外部接続機器と連携することで、楽曲制作の限界を押し広げることになりました。

「サウンド・デザインに多くの時間をかけて、出来上がったものを個々のパッチとして保存しておき、ライブでそれらを選択してRC-505でループさせるんだ」

新たなループ・アーティストたち

RC-505を世界に広めたひとり、音楽オーディション番組「The Voice」の優勝経験者でもあるSam Perryはこう語っています。「RC-505は、僕のセットアップの心臓部となる最新で最高のLOOP STATIONだ。ベース用マルチエフェクターのGT-10Bで構築したサウンドを個々のパッチとして保存しておいて、ライブでループさせているんだ」

YouTuber/レコーディング・アーティストとして活躍するTash Sultanaは、活動初期はRC-30を使用していましたが、最大で15もの楽器を同時にループさせることで知られるこのオーストラリアのシンガーソングライターが思い描くサウンドは、RC-505によって完全な形で実現しました。「もしあなたがルーパーには多くの制約があり、パフォーマンスを複雑で難解なものにしてしまうと思っているなら、Sultanaがその疑念に答えてくれるだろう」と、MusicRadarは述べています。

RC-505をチェロ、ダラブッカ、カホン、ディジュリドゥ、ショファルなどあらゆる楽器と組み合わせて使用しているYouTuberのReinhardt Buhrの演奏も見逃せません。「その場にあるすべてを組み合わせたパフォーマンスを、RC-505は実現してくれるんだ」

「最大で15もの楽器を同時にループさせることで知られるこのオーストラリアのシンガーソングライターが思い描くサウンドは、RC-505によって完全な形で実現しました」

RC-600
rc-505mkii

進化し続ける機能性

フロア・タイプのLOOP STATIONとしては2020年にRC-5RC-500が新たに登場し、13時間という膨大な録音時間と、強化された外部コントロール・オプションが提供されましたが、2022年に発売されたRC-600はそれらを凌ぐ飛躍を遂げています。6つのステレオ・トラック、32bitの高音質なサウンド、さまざまな楽器に対応する入力端子、9つのカスタマイズ可能なフット・スイッチによる緻密なコントロール、アイデアを膨らませる内蔵FXを誇るこの圧倒的にパワフルなモデルが登場してまもなく、Facebookコミュニティでは専用ページが立ち上がり、機能に関する活発なやり取りが交わされました。とあるコミュニティのメンバーはこう語っています。「やぁ、みんな。古いモデルからこの衝撃的なマシンに乗り換えたところなんだけど、このモデルはいったい何ができないんだ!?」 

RC-600がニュー・フェイスとして登場した2022年には、生まれ変わった旧友も戻ってきました。RC-505mkIIは、5つのステレオ・トラック、カスタマイズ可能な49種類のインプットFXと53種類のトラックFX、99個のメモリー、数々のプレイバック機能、そしてファンタム電源に対応するXLRマイク入力によって、新たなスタンダードを確立しています。

「RC-505mkIIが届いた日、新たな機能を1つも逃さず発見しようと部屋に3時間は閉じこもったよ」

ビートボクサーたちとの絆

熱狂的なビートボックス・コミュニティは、数えきれないほどのバンドや作曲家(ミステリアスなUK出身のデュオ、The Stickmen Projectの挑戦的なMVをご覧ください)と同様に、すぐにこの新しいモデルを採用しました。著名なビートボクサーRythmindは、発売年にはすでにRC-505mkIIを使って彼の代表曲「Back To The Underground」を制作しています。Swissbeatboxも、発売前のロードテストとして特別なイベントSBX Kickback Battleを開催し、この最新機の実力を披露しました。

アメリカのビートボクサー、Josh Oは、「RC-505mkIIが届いた日、新たな機能を1つも逃さず発見しようと部屋に3時間は閉じこもったよ」と語っています。

Inkie
Inkie

「LOOP STATIONが持つ無限の可能性を大きく広げ、このシリーズがどこへ向かうべきかを指し示す役割を果たすのは、ミュージシャンたちでもあるのです」

Beatboxer
Photo courtesy of Swissbeatbox
rc-505mkii and guitarist
Photo courtesy of Swissbeatbox

LOOP STATIONの未来

では、LOOP STATIONの未来はどうなるのでしょうか?それは直接的にはBOSSのエンジニアたちにかかっていますが、LOOP STATIONが持つ無限の可能性を大きく広げ、このシリーズがどこへ向かうべきかを指し示す役割を果たすのは、ミュージシャンたちでもあるのです」

進化を続けるルーピングの世界がどうなっていくかは予想もつきませんが、先駆者であるRober Frippの言葉は常に真実であり続けるでしょう。「一人で溢れかえる耳障りなノイズを出す方法。それって最高だよ!」

Henry Yates

ジャーナリスト兼コピーライター。NMEや、Guardian、Telegraph、Classic Rock、Total Guitarなど多くのメディアで執筆を行う。