ミュージシャンであるならば、自身が奏でるサウンドにこだわりを持つことは当たり前のことです。デジタル・ディレイのクリアな精密さが好きな人もいれば、アナログ・ディレイの微妙なニュアンスや不規則な挙動を好きな人もいます。もちろん、両方の音色を好む人もいます。音楽家は、自身が信じるものを好むのです。1つ確かなことは、プレイヤーの立場に関わらず、アナログとデジタルのディレイ・ギター・ペダルを有用であるということです。アナログとデジタルのディレイ・ギター・ペダルの違い、長所と短所、そして自身のボードで両方のディレイ・タイプの活用法について見てきましょう。
ディレイ・ペダルの簡潔な歴史
BOSSによるコンパクトなデジタル・ディレイ・ペダルの発明は、エフェクターを一変させ、今日のプレイヤーがかつてないレベルの汎用性と多様性を実現しました。DD-200やDM-101のようなペダルで、どんなディレイの音色も生み出せることは幸運と言えます。
1973年、Rolandの伝説的なテープ・ディレイ・ユニット“Space Echo”が世に放たれた時、ギタリストとスタジオ・エンジニアの環境は一変しました。Space Echoは世界中のスタジオやミュージシャンが信頼を寄せる業界標準のテープ・エコー・マシンとして普及します。やがて、ギタリストがライブのセッティングにも取り入れ、ステージでも使用されるようになると、テープの断線を心配する必要のない、ペダルボードやパフォーマンスに適した小型化した製品が欲しいという声が上がりました。
BBDとデジタルの登場
1978年、DM-1Delay Machineが誕生しました。コストパフォーマンスに優れ、持ち運びにも便利で、非常に信頼性の高いペダルです。アナログのDM-1は温かく美しいニュアンスの音が自慢で、最大500msのディレイタイムを実現しました。そのため、より長いディレイ・タイムとディレイ・エフェクトをその場で微調整したいミュージシャンにとって、非常に魅力的なペダルとなりました。1981年に登場したDM-2には、バケット・ブリゲード・デバイス(BBD)が搭載。ディレイは300msに短縮されましたが、形状はさらに小さくなり、現在のコンパクト・エフェクターのような形になりました。しかし、それでもギタリストはそれ以上のことを求め続けています。
「アナログのDM-1は温かく美しいニュアンスの音が自慢で、最大500msのディレイタイムを実現しました」
ステージやスタジオでより長いディレイ・タイムと忠実度の高いサウンドを必要とするギタリストのために、BOSSはディレイ・ペダルの世界をデジタル化する時が来たと考えます。そして1983年、世界初のコンパクト型デジタル・ディレイのDD-2が誕生しました。これはBOSS初のデジタル・ペダルです。
DD-2はより忠実度の高いサウンドと最大ディレイタイム800msを実現し、アナログ・プレイヤーが好む透明感のある温かい音色を、デジタルの機能性と信頼性で実現しました。ディレイ・ペダルの世界に革命を起こし、ディレイ・ペダルのスタンダードとして認知されました。他のペダルには、ディレイ・ペダルの代用は務まりません。ギタリストにとってみれば、ディレイ・ペダルの選択肢が増えたということになります。それでは、技術的な詳細を掘り下げてみましょう。
Types of Delay Pedals
アナログ・ディレイはデジタルより優れている?
温かく、有機的で、少し不規則なリピートを好むなら、アナログ・ディレイが適しています。MIDIの同期によって正確なディレイが必要な場合は、デジタルの方が相応しいでしょう。
どちらのディレイにも適材適所があります。いつの時代も、音楽にはルールがありません。自分の好みと目指す音が全てです。ここでは、ディレイ・ペダルを選ぶ際に要となる疑問について紹介します。
- 毎回、少しずつ劣化していく有機的なディレイが好きですか?Radiohead、Band Of Horses、U2、Pink Floyd、The Verveなどのバンドを思い浮かべてください。
- MIDIで正確にトリガーされたディレイが好きですか?Periphery、Animals As Leaders、Monuments、Polyphia、Guns N’ Rosesのようなバンドを思い浮かべてください。またSlashは“Welcome To The Jungle”のイントロでDDペダルを使った先駆者です。
絶対的な精度を求めるのであれば、デジタル・ディレイを推奨します。リピートするたびに、徐々に劣化していくディレイを求めるのであれば、アナログを試してみてください。
「DM-2Wはヴィンテージでノスタルジックな音色に最適で、DM-101は1台で様々なディレイ・サウンドを楽しむことができます」
アナログ・ディレイ・ペダルの実例
BOSSの優れたアナログ・ディレイ・ペダルは、DM-2WとDM-101 Delay Machineの2機種です。どちらもBBDを使用し、アナログ・ディレイの豊かな個性を表現しています。
DM-2Wはヴィンテージでノスタルジックな音色に最適で、DM-101は1台で様々なディレイ・サウンドを楽しむことができます。例えば、DM-101には以下のような12種類のディレイ・モードが内蔵されています。
- Classic—最大1200msのディレイ・タイムで拡張された伝統的で温かいアナログ・ディレイ・サウンド
- Vintage—1981年に発売されたBOSS DM-2 Delayペダルからインスパイアされたレトロなアナログ・ディレイ・サウンド
- Modern—独特のハイエンド・トーンと最大840msのディレイ・タイムを持つ、ユニークでクリアなアナログ・ディレイ・サウンド
- Multi-Head—マルチヘッド・テープ・ディレイを再現しながら、アナログBBDならではのサウンド・キャラクターを付与
- Non-Linear—短いディレイ(35~190ms)を連続的に発生させ、徐々に音量を増加させる個性的なエフェクト
- Ambience—小さな空間をシミュレート
- Reflect—リバーブ風の効果を生み出すステレオ・ディレイ・サウンド
- Doubling+Delay—2倍の音と長いディレイを組み合わせたステレオ・エフェクト
- Wide—左右のディレイ・タイムがオフセットされ、広がりのあるサウンドが得られるステレオ・ディレイ
- Dual Mod—右の出力で異なるモジュレーション・フェーズを設定できるステレオ・ディレイ
- Pan—異なるディレイ・タイムを音場に分散させたタップド・ステレオ・ディレイ
- Pattern—異なるリズムパターンを持つステレオ・ディレイ
デジタル・ディレイ・ペダルの実例
BOSSのデジタル・ディレイ・ペダルで最も人気があるのがDD-3Tです。直感的に3つのタイム・レンジ設定とディレイ・パラメーターの調節が可能です。
12.5~800msのディレイ・タイムを3つのレンジに分け、素早くセットアップができます。さらに、フレーズ・ループを作成するためのショート・ループ機能も搭載しています。これは、オリジナルのDD-3に搭載されていたホールド機能と同様で、ドライ・サウンドとウェット・サウンドを別々のアンプに送るためのダイレクト・アウトプット機能も搭載されています。必要なものは全て搭載され、制作作業に適したデジタル・ディレイ・ペダルです。
「BOSSのデジタル・ディレイ・ペダルで最も人気があるのがDD-3Tです。3つのタイム・レンジ設定とディレイ・パラメーターの調整が可能です」
MIDI接続やトリガー、複数のディレイ・タイムが必要な場合は、DD-200が良いでしょう。DD-200ペダルは、32ビットAD/DA変換、32ビット浮動小数点プロセッシング、96 kHzサンプリング・レート、多彩なディレイ・タイプを提供する12種類の多彩なモードにより、クラスをリードするサウンド・クオリティを実現します。
ハンズオン・コントロールで素早く簡単に操作できるよう設計されており、パネルまたはMIDIプログラム・チェンジから128の設定にアクセスできます。さらに、フットスイッチまたは専用パネル・ボタンで、4つメモリーやリアルタイムのパネル設定を呼び出すことができます。DD-200デジタル・ディレイは、最大60秒の録音が可能なフレーズ・ルーパーも搭載しています。ディレイ・モードには以下が含まれます。
- Standard—クリアなデジタル・ディレイ、PARAMでディレイ・アタックを調整
- Analog—BOSS DMシリーズのようなクラシックなアナログBBBディレイを再現
- Tape—伝説的なRoland RE-201 Space Echoの温かいテープ調の音色を再現
- Drum—Drum ‘n’ BassのBinson Echorec 2をモデリング
- Shimmer—青々とした天国のようなテクスチャーのためのピッチシフトディレイ
- Tera Echo—BOSSのTE-2ペダルから生まれた、広々としたアニメーション・アンビエンス・エフェクト
- Pad Echo—漂うようなアンビエント・テクスチャーを生み出す新開発ディレイ・サウンド
- Pattern—16本のディレイ・ラインを重ねたリズミック・サウンド
- Lo-Fi—太く歪んだディレイ・サウンド
- Dual—2つの異なるディレイ・ラインを直列に接続
- Reverse—クールなサイケデリック・エフェクトや個性的な音色を生み出すバックワード・ディレイ
- Ducking—ダッキング・エフェクト内蔵のディレイ
「ギターやベースそれぞれのセットアップにディレイ・タイプを取り入れることで、より幅広い音色が実現します」
アナログとデジタルのディレイ・ペダルの使い分け
ギターやベースそれぞれのセットアップにディレイ・タイプを取り入れることで、より幅広い音色が実現します。温かいヴィンテージの音色にはDM-2Wのようなアナログ・ディレイを、正確でリズミカルなディレイにはDD-8のようなデジタル・ディレイを使うと効果的です。両方持っていることで世界は広がります。そして多くのプレイヤーは、必要な用途に合わせてペダルボードに複数のディレイを使用しています。BOSS DD-3Tはタップ・テンポ機能により足元でディレイ・タイムのコントロールが可能、DM-2Wはリピート音に余韻と有機的な変化を求める場合に最適です。
アナログの繊細なニュアンスは、ギター・ソロや曲を展開する際に実用的です。リピート音が繰り返されるたびに徐々に変化していきます。一方で、デジタル・ディレイ・ペダルは絶対的な正確さが特徴のため、イントロやスネア・ドラムとのロック・インなど、どのライブでも同じテンポを維持します。
メリットとデメリット
デジタル・ディレイとアナログ・ディレイの長所と短所は、主に2つの側面に集約されます。DM-2Wのようなアナログ・ディレイは、温かく音楽的なエコーを鳴らしますが、精度や多様性では、デジタル・ディレイに軍配が上がります。DD-8のようなデジタル・ディレイは、より長いディレイ・タイムと高解像のリピートを提供しますが、好みによっては原音に忠実すぎることもあります。アナログとデジタルの良し悪しを計るわけではありません。どちらのタイプも万能で、それぞれの良さを楽しむことができます。
アナログのメリット
- 温かみのあるサウンド
- 繊細なニュアンス
- 自然なモジュレーション
- 毎回少しずつ劣化する ディレイ
アナログのデメリット
- デジタルディレイより精度が劣る
- 強くかけすぎると自己発振することがある
デジタルのメリット
- ミリ秒単位の遅延時間精度
- 音質劣化なし
- 原音に忠実でクリーンな音
デジタルのデメリット
- クリーンすぎる音色
- 演奏ミスを隠せない
「アナログとデジタルの良し悪しを計るわけではありません。どちらのタイプも万能で、それぞれの良さを楽しむことができます」
複数のディレイ・ペダルへの電源供給
複数のペダルに電源を供給する場合、電源(単体ACアダプターまたはペダル電源 「ブリック 」式)が合計の消費電流を処理できることを確認してください。例えば、DD-8は70mA、BOSS DD-200は225mAです。9VのACアダプターでこの両方を供給できます。ただし、使用する電源が適切な消費電流であることを確認する必要があります。適切なmAを供給しなければ、ディレイは正しく動作しませんし、過大な電圧を供給すれば、内部が破損する危険性があります。常に以下のことを覚えておきましょう。
- mA(供給電流)が大きすぎる=ペダルが必要な分しか供給しない
- mAが小さすぎる=ペダルが動かない
- 電圧が高すぎる = ペダルの内部が破損する可能性がある
- 電圧が低すぎる = ペダルが動作しない
シグナル・チェーン
ディレイ・ペダルは、エフェクト・チェーンの最後に置くことで、他のエフェクトがかかった音全体にディレイ効果を加え、空間的な広がりやエコーのような響きを作り出します。ファズの前にディレイを置くと、音色のコントロールが難しくなり、ファズの挙動自体にも影響を与えます。ディレイは音色の最終形態を担うペダルです。
AD変換
DS-1 DistortionやDM-2Wのようなアナログ・ペダルをデジタル・ディレイの後に置くと、アナログの信号を維持するのが難しくなります。デジタル・ディレイをチェーンの最後に置いて、デジタル・ディレイが動作する前にアナログの音色を磨き上げてください。
「ディレイ・ペダルは、エフェクト・チェーンの最後に置くことで、他のエフェクトがかかった音全体にディレイ効果を加え、空間的な広がりやエコーのような響きを作り出します」
アナログのDM-2WやDM-101、デジタルのDD-3TやDD-200など、アナログとデジタルのディレイ・ペダルはどちらも独自の強みを持ち、ペダルボードやライブ、スタジオの機材に素晴らしいアクセントを加えることができます。アナログ・ディレイ・ペダルとデジタル・ディレイ・ペダルの選択は、求めるサウンドによって異なります。ディレイ・ペダルのスイッチを入れて演奏すれば、空間を包む混むエコーが新たな旅へと導いてくれるでしょう。