理想的なエフェクターの接続順とは

理想的なエフェクターの接続順とは

エフェクターの接続順についての意見は様々で、ギタリストたちにとって永遠のテーマです。この記事では、エフェクターのシグナルの流れを理解するためのレシピを紹介します。

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エフェクターの接続順について周りのギタリストたちに話を聞いてみると、理想の接続順に関する意見は様々で、実際にエフェクター・マニアたちが自身のエフェクター・ボードを紹介する際には、思わず熱が入ってしまうことは多々あります。魅力的なペダルの虜になったマニアたちは、誰もが独自の最適解を持っています。そのため、自分に合った助言を得ることは、モッシュが巻き起こるコンサート会場で落としたコンタクト・レンズを探すくらい困難なことです。

常識に捉われるな

“絶対的な接続順”という概念に、あまりこだわらないほうが良いかもしれません。プレイヤーのタイプを重視した信号の流れをいくつか紹介します。特定のタイプのプレイヤーに有効な信号の流れに、スポット・ライトを当ててみましょう。しかし、信号の流れの常識は決して“常識的”とは言い切れません。オーディオのプロ、ギター・ヒーロー、トーン・マニアたちが何十年にもわたって研究し、最適な信号の流れを作り上げてきました。これらのプレイヤーたちは、美しく、鮮烈で、荒々しいギター・サウンドを構築しています。実績のあるサウンドを支持することは、間違いではないのです。

論理的な信号の流れ

“正しい答え”に近い回答を提供してくれそうなのは、巨匠であるSteve Vaiです。2018年にYouTubeチャンネル「Musician’s Friend」のウェビナー「Perfect Pedal Order」で、主にBOSSのペダルを使った音作りについて解説し、その中でVaiは一般的な接続順を推奨するのは気が進まないと述べています。その代わりに彼は、信号の流れについて論理的に説明しています。Vaiはまた、「恐れてはいけません。どのような順番でペダルを接続しても、まずはあなたの耳がどう反応するかが大事なのです」と話しています。

"1960年代の輝かしいサウンドのいくつかは、間違いや驚き、あるいは実験による産物"

Steve Vaiメソッド

Vaiは「Perfect Pedal Order」のウェビナーで、次のような信号の流れを提唱しています。ギター→チューナー(BOSS TU-3)→オーバー・ドライブ(BOSS OD-1X)、ディストーション(BOSS DS-1)、モジュレーション1(BOSS BF-3)、モジュレーション2(BOSS PH-3)、ディレイ(BOSS DD-7)。この配置により、クリーンからクランチやディストーションまで、人間工学に基づいたステップを踏むことができるのです。そして、最後にキラキラとしたエフェクトを接続することで、クリーンまたはダーティなトーンを加工することができます。シンプルかつエレガントなセッティングです。

5種類のグループ分け

1:ダイナミクス/ピッチに影響を与えるペダル

Rolandオーストラリアのプロダクト・チーム・リーダーであるEd Limは、エフェクターの並びについて“ファミリー・スタイル”という考え方を提示しています。Vaiと同様、Limもチューナーを優先し、クリーンで堅牢な信号を確保。ファミリー・グループ1は、ダイナミクス/ピッチに影響を与えるペダルです。例えばBOSSのPS-6 HarmonistやCP-1X Compressorは、クリーンな信号を入力した時により良いレスポンスが得られるのです。

2:トーンを形成するペダル

BOSSのMT-2W Metal ZoneやBD-2W Blues Driverを思い浮かべてください。これらのペダルは基本的にギター・トーンのノイズを上昇させる傾向があるため、シグナル・チェーンの早い段階で轟音を発生させることが重要です(ヒス・ノイズやその他のノイズでサウンドが損なわれるのは好ましくありません)。

"コンプレッサーの仕事は音量レベルの信号を整えること"

3:音色を修正するペダル

グループ3の例としては、BOSSのDC-2W Dimension CやCE-2W Chorusなどがあります。ディストーションやオーバードライブのあとに置くと、キラキラとした光彩を加えることができます。

4:音を繰り返す/複製するペダル

BOSSのDD-8 Digital Delay、RC-5 Loop Stationなどのペダルが該当します。これらのペダルは、接続の最後に配置してその前の処理を確実に強化します。

5:アンビエンスを作り出すペダル

BOSSのRV-6 ReverbやTE-2 Tera Echoなどが該当します。無響室でない限り、リバーブはサウンドに動きと奥行きを与えてくれます。つまり、前面に出てくるサウンドはこのリバーブの恩恵によるものなのです。

数字で見る

雑誌「Guitar Player」のライターであり、ミュージシャンとファンによる交流サイト「Guitar Moderne」の創設者であるMichael Rossが、ペダルの順番を数字で表したシンプルな図を考案しました(https://www.guitarplayer.com/gear/pedal-order-by-the-numbers-plus-the-pros-on-pedal-order)。ポジション1はBOSSのPW-3 WahやAW-3 Dynamic Wahのようなフィルター系ペダルで、アタックに反応するため、コンプレッサーやディストーションのようにアタックをミュートするペダルの干渉を受けないようにします。ポジション2はコンプレッサーです。音量レベルの信号を整えることが仕事ですが、原音とともにノイズが増えてしまう可能性もあるので、接続の早い段階で使用するのが良いでしょう。

ディストーションとオーバードライブは、無変調の信号でより良く動作するためポジション3を仮定しています。一方、クランチ/ファズ/サチュレーションのあとにポジション4であるモジュレーション系エフェクト(トレモロ/コーラス/フェイザーなど)をかけると、素晴らしい質感が得られます。ポジション5は、BOSSのFV-500やFV-30などのボリューム・ペダルです。このポジションでは、ディストーションやオーバー・ドライブが前に来ることで攻撃的なトーンをコントロールすることができます。リバーブやディレイはポジション6で、先に作り込んだサウンドにアンビエンスを加えることができます。

"リバーブはサウンドに動きと奥行きを与える"

プロフェッショナルを模倣する

家電製品を買う前にスペックを入念に調べるような人は、あらかじめ決められたテンプレートに則って接続順を考えるほうが安心かもしれません。従来の信号の流れを参考に、自分の接続順をグラフ化するという優れた手法があります。出発点は、著名なプレイヤーの接続順を模倣すること。お気に入りのプレイヤーのエフェクター・ボードの写真を見つけ、その接続順を真似るだけ。何て簡単でしょう。

Joe Satrianiスタイル

例えばJoe Satrianiが好きなら、彼のエフェクター・ボードの基本的な配置をコピーしてみましょう。【1】ワウ 【2】ファズ/オクターブ 【3】モジュレーション(BOSSのCH-1 Super Chorusを含む) 【4】ディストーション 【5】オーバードライブ 【6】ピッチシフター 【6】ディレイです。

実験的なシグナル

もしかしたら、あなたはもっと個性的な音楽が好きかもしれません。Dagger Mothのイタリア人ギタリストSara Ardizzoniは、接続の最後にBOSSのRC50をつないでループ・ベースの音楽を演奏しています。彼女のギターからは、【1】BOSSのチューナー 【2】BOSSのトレモロ 【3】ディレイ  【4】BOSSのMO2 Multi Overtone 【5】ディストーション 【6】ファズという順番で接続されています。

ブルース、ジャズ、インダストリアル、アンビエント、レゲエ、アコースティックなど、興味がある音楽ジャンルのことを少しだけ下調べしてみてください。そうすれば、あなたの好きなプレイヤーの機材について明らかになり、ギター・トーンの基本的なロード・マップを手に入れることができます。その後、模倣に着手します。自信がついたらサウンドの実験に没頭しましょう。

”音楽は感情、インスピレーション、独自性が最も重要です”

我が道を行く

“パンク・ロックな接続”という選択肢もあります。つまり、自分が求めるサウンドであればペダルを好きな順番で並べるのです。直感に従うのも良いですし、ペダルの配色で並べるのが好きな人もいるでしょう。さながら“アンディ・ウォーホル・メソッド”ですね。

エフェクター愛好家からすれば、耳の痛い話かもしれません。しかし、自分が出すサウンドが自分にとって至福の時であるなら、誰に文句を言われる理由はないでしょう。このようなアプローチを“無知だから”と片付けないでください。1960年代の輝かしいサウンドのいくつかは、間違いであり、驚きであり、実験から誕生しました。ルールを捨てて、世間が驚くようなサウンドをぜひ考案してください。 

理想的な接続順とは何か?

あなたが作り出すものは音楽ですから、感情やインスピレーション、独自性が最も重要です。それを達成するためには、常識やガイド・ブック、友人やバンドマンからの忠告に従う必要はありません。求めるサウンドにどうやって到達するかは、あなたのやり方次第。つまり、理想的なエフェクターの接続順とは、“あなたにとって”理想的な接続順なのです。

Michael Molenda

アメリカの人気雑誌Guitar Playerで過去最も長く編集長を務めた経歴を持ち、現在はGuardians of Guitarというウェブサイトを立ち上げ、ギター関連製品に関するコンテンツ制作を行なっている。また、Modern Drummerマガジンのコンテンツ・ディレクターとしても活躍中。