Serial GK Partners: Deviser

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今回、GK5-KITを搭載したモデルが発売されるのはBacchusブランドから。そこには、中価格帯で提供することで一人でも多くのユーザーにギター・シンセを手に取ってもらいたいという想いが込められている。販売促進部の原庄平氏と、GK5-KITを組み込むにあたり図面作成などを担当した組込課の山川将平氏に話を聞いた。

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1977年、記念すべき世界初のギターシンセRoland GR-500が発売。エポックメイキングな製品の登場により、先鋭的なプレイヤーたちによってギター表現は新たなステージへと突入することになる。その後、初のポリフォニック(和音)に対応、さらにシンセサイザー・ドライバーGK-2の登場によって自身のギターに搭載可能となるなど、正統な進化を遂げてきたギター・シンセ。2023年、新たに新方式のデジタル伝送を採用した「シリアルGK」の登場によりギターやベース本体に内蔵できるGK5-KITシリーズがラインナップ。音源コントロール用スイッチとボリューム、ノーマル・ギター出力機能の追加、7弦ギターへの対応など普遍性も追求。多様化する現代の音楽シーン、制作環境に対応するアイテムへとビルドアップしている。この記事では、GK5-KITシリーズを導入するギター/ベース・メーカーを取材。導入を決めた理由やGK5-KITシリーズが秘める可能性について話を伺った。

株式会社ディバイザーは、前身のヘッドウェイ株式会社として1977年に創業。もともとはアコースティック・ギターの工場としてスタートしたが、1980年代にエレキ・ギター・ブームが到来するとエレキ・ギターの生産も開始する。当初はOEMの生産が多かったが、会社が分化する形で1991年に営業部門としてディバイザーを設立。それ以降、製造工場と営業部門の二つのグループ会社となった。1994年、「メイド・イン・ジャパンの高品質なギター/ベースを提案する」というコンセプトのもと、オリジナル・ブランドのBacchusがスタート。さらに、2000年代に入ってからはMomoseやSeventySeven Guitarsなどコンセプトや価格帯の異なるブランドを立ち上げ、現在はオリジナル・ブランドの生産や企画が主な事業となっている。

◾️ブランドが掲げるポリシー

海外事業部 販売促進部 部長 原庄平氏

 Bacchusは紆余曲折を経て、2000年代初頭にHandmadeシリーズという国産のラインを立ち上げました。1990年代はコピー・モデルが多かったのですが、Handmadeシリーズではこれまでの歴史で培ってきた工場の技術力をもっとアピールするために、オリジナル色の強い製品を作るようになりました。そこから派生した製品が今なお続いています。しかし、コスト上昇の影響もあり、現在Handmadeシリーズはスポット生産品以外の生産を止め、低〜中価格帯の海外製品の販売に注力しています。

中価格帯というと弊社では希望小売価格で7万円から10万円前半の製品を指しますが、その製品もすべて1本1本丁寧にチェックし、擦り合わせや弦高のセットアップ、ナットやフレットのエッジの調整など、弾きやすい形に仕上げています。コンセプトとしては、初心者が手に取るような価格帯の製品でも優れた演奏性や仕様を提供することを大切にしています。

Bacchusのロング・セラーがベースのWoodline(WL)シリーズです。Handmadeシリーズの開始時から存在し、現在は低価格帯の製品でもシェイプや仕様を継承しており、代表的な製品となっています。スペック的な特徴としては、基本的にはJBタイプですが、ややスリムでダウンサイズされています。また、価格帯にもよりますが、Woodlineシリーズはオイル仕上げでクリア・ピックガードを採用するなど、木の魅力を全面に出しています。最近ではトップ材にキルト・メイプルやスポルテッド・メイプルを使用し、低価格帯のモデルでもローステッド・メイプルネックを取り入れるなど、木材自体の良さを感じられる点を大切にしています。

「初心者が手に取るような価格帯の製品でも優れた演奏性や仕様を届けたい」

◾️GK5-KITの導入について

 弊社としてこれまでギター・シンセとの接点はあまり多くありませんでした。お客様からの特注モデルでギター・シンセを搭載したいと言われた際に組み込んだり、その程度の接点はありましたが、ギター・シンセを搭載したモデルをしっかりと作るのは今回が初めてです。GK5-KITの発売を聞いたときの印象ですが、正直に申し上げると、ギター・シンセに対する知識が深いわけではなかったので、「新しい製品が出るんだな」と感じた程度でした。その後、実際にRolandさんの本社に伺い、従来のモデルとの違いや進化についてお話を聞きました。先ほども言ったように、ここ数年は低〜中価格帯の製品に力を入れていることもあり、GK5-KITを搭載したギターを製造することに新たな可能性を感じたんです。

品質保証部 組込課 主任 山川将平氏

山川 僕も正直、これまでギター・シンセは触ったことがなかったのですが、今回GM-800に触れて調べてみると、本当にいろいろな音色が出ることがわかり、非常に興味深かったです。僕自身、スイッチの多いジャパン・ビンテージが大好きなので、作業していてとても楽しかったですね。

 GK5-KIT搭載モデルはギターとベースそれぞれ2モデルで、ギターがBSH-STD-GKTACTICS24-FM-GK、ベースが4弦モデルのWL4-STD-GKと5弦モデルのWL5-ASH-GKです。同価格帯には他モデルもありますが、これらを選んだ理由はベースに関してはBacchusの定番モデルから4弦と5弦を出したいのと、昨今のポップスやアニソンでも5弦ベースが多用されていることから、ラインナップに含めることが重要だと判断しました。

BSH-STD-GK
TACTICS24-FM-GK
WL4-STD-GK
WL5-ASH-GK

エレキ・ギターに関しては、BacchusのSTタイプであるBSH-STD-GKは非常に人気が高く、ピックアップ・レイアウトSSHは汎用性が高いため近年需要が高まっています。このモデルはエレキ・ギターの超定番としてよく売れており、仕様的にも見た目的にも幅広い弾き手に対応できることが魅力です。

TACTICS24-FM-GKはTLタイプのボディ・シェイプに2ハムバッカーという構成ですが、これは比較的最近出たシェイプで、2020年頃から製作しています。非常に評判が良く、元来24フレットというとメタル向けのイメージが強かったのですが、TLタイプで24フレット、ローステッド・メイプル、ロック・ペグなど、普通のエレキギターとしての機能面でも非常にこだわったモデルです。

山川 実際に取り付け作業をしてみて、普段やっている作業とは異なるので色々と考えながら進めましたが、とても楽しかったです(笑)。取り付け自体は非常に簡単で、ザグリの拡張は必要ですが難しくはありません。配線がごちゃごちゃすることもなくシンプルです。基本的には既存のものからザグリを少し広げました。ボディなどは海外工場で作られるため、図面を作成して一から作り上げる形になります。もともとのザグリよりも広くなる部分や、新たにGKのボリュームやスイッチ、GKピックアップの配線穴を開けなければならない部分も含めて、すべて図面を描きました。

スイッチの場所は新たに設けるものもありますし、不自然に離れていると使いづらいため、使いやすさと自然に見えることにこだわりました。プレイアビリティが悪ければ使われなくなってしまうこともありますし、ライブで使う際にも操作性は重要です。実際に組み立ててみないと分からない部分もあるので、最初にいくつかのイメージ画像を描いて「このパターンとこのパターンどれが良いと思いますか?」と打ち合わせを重ねました。現物のベースを触りながらイメージを固め、図面も原寸大に拡大し、ボディの上に置いたりして見た目のバランスや美しさにもこだわりました。

制作者目線で細かいことを言うと、アース線というものがありまして、それを「一つにまとめない」というこだわりを持っています。これは、修理する際に全部外れてしまうと、リペアマンがそれを再度取り付ける作業が必要になり、熱を加えることによってポットに負荷がかかってしまうんです。ポットの配線を綺麗にすることにこだわりを持っていますので、もし勇気のある方は裏蓋を開けてみてください(笑)。すごく綺麗にまとめるよう頑張りましたので。

「GK5-KITを搭載したギターを製造することに新たな可能性を感じた」

◾️GK5-KITが示す新たな可能性

 私自身もギターを弾いているのでイメージしてみたのですが、近年はギタリストの間でもDAWに対する親和性が高くなっていますよね。バンドだけじゃなくてネットに音楽を投稿することも普通になってきていますし、そうなるとリズムも打ち込みになるじゃないですか。シンセサイザー的な音が使いたくなるけど、DAWでそういった音を出すには基本的にMIDIキーボードに繋がないと演奏できないですよね。だから、ピアノを習っておけばよかったと思ったりもするんですけど(笑)、ギター・シンセであれば今まで培ってきたギターの技術でそういう音が出せるんです。いろいろな音楽の作り方がある中で、ギター・シンセの魅力が再発見できると感じました。比較的若い子も入手しやすい低中価格帯で、そういう製品を作れたことを嬉しく思っています。

山川 今回GM-800で試させていただいて、本当にいろいろな音作りができるなと。時間をかければ自分の好きな音だったり、楽曲作りにもすごく活かせるんじゃないかなと思います。

 基本的なエレキ・ギターとしてそのまま演奏できるところも重要視しています。アウトプットが二つあるので、通常のピックアップのアウトプットを使えば普通のギターとしても使えます。さっきも言ったように、GM-800やギター・シンセは本当にいろいろな音作りができるので可能性は無限大だと思うんです。例えばDAWで作られた音楽、ボカロ曲とかアニソンでもいいんですけど、シンセサイザーの音が必要になったとき、普通だとシンセが必要ですがギタリストでもそれが再現できる。例えば文化祭でコピバンをやるときに打ち込みで作った音楽をバンドで再現したり、そういう使い方もいいんじゃないかなと想像しました。

「いろいろな音楽の作り方がある中で、ギター・シンセの魅力が再発見できる」

山川 あとはストリート・ライブを行なっている方で、ルーパーに繋げたりして使うのも面白いと思いました。ichikaさんやMIYAVIさんのようなプレイヤーというか、ああいう音楽もアイディア次第で作れるなって。ペダルが1台で済むのも純粋に持っていきやすいですよね。手に取ってもらって、長い付き合いというか相棒にしていただければと思います。

 いろいろな音作りができて、驚きがあって、面白い世界が広がります。ぜひ音楽の可能性に挑戦してほしいですね。

(Writing & Photography Motomi Mizoguchi)

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