Serial GK Partners: dragonfly

Serial GK Partners: dragonfly

1988年に西日本を中心とした販売代理会社を起業。その後、Godin、TC Electronic、AKG、L.R.Baggsなどギターやレコーディング機器の販売を行い、1999年にdragonflyブランドを設立した株式会社ハリーズエンジニアリングの戸谷達明氏。“ライブやレコーディング現場での要望にいかに応えられるか”をモットーに製品企画開発に取り組み、その中でも666(トリプル・シックス)ミリなどのロングスケール・モデルが好評を博し、プレイヤーから絶大な支持を得てきた。そんな戸谷氏にとって、ギター・シンセは楽器業界に飛び込む契機となった思い出深いモデル。GK5-KITの誕生をどのように受け止め、dragonflyへと落とし込んでいっただろうか。

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1977年、記念すべき世界初のギターシンセRoland GR-500が発売。エポックメイキングな製品の登場により、先鋭的なプレイヤーたちによってギター表現は新たなステージへと突入することになる。その後、初のポリフォニック(和音)に対応、さらにシンセサイザー・ドライバーGK-2の登場によって自身のギターに搭載可能となるなど、正統な進化を遂げてきたギター・シンセ。2023年、新たに新方式のデジタル伝送を採用した「シリアルGK」の登場によりギターやベース本体に内蔵できるGK5-KITシリーズがラインナップ。音源コントロール用スイッチとボリューム、ノーマル・ギター出力機能の追加、7弦ギターへの対応など普遍性も追求。多様化する現代の音楽シーン、制作環境に対応するアイテムへとビルドアップしている。この記事では、GK5-KITシリーズを導入するギター/ベース・メーカーを取材。導入を決めた理由やGK5-KITシリーズが秘める可能性について話を伺った。

◾️ブランドが掲げるポリシー

株式会社ハリーズエンジニアリング 戸谷達明氏

1999年頃にdragonflyを立ち上げた当時、Tom Andersonなどのカスタム系ギターが人気でした。ブランドに対する憧れはある一方で、自分のバンドの音域や音色を追求すると、そのギターでは対応できないことが出てくる。特に低域のコントロールやピッチの問題を解消できずに、ブランド系のギターで何とか弾いている人が多かったんです。ブランド発足時はいわゆるディンキー・タイプのストラト系を作っていましたが、チューニングを下げるバンドが増えていた当時は低域やピッチが悪い人が多く、だったらその辺を突き詰めましょうと。

本来ならメインストリームで売れるものを作るべきかもしれませんが、それよりも不自由なところに対応できるものを作りたい。ヴィンテージ・スタイルの楽器や綺麗な木目のギターを作ることよりも、音楽をするにあたってみんなが感じている“不自由さ”を解消したいというのがブランドとしてのポリシーです。

2001年頃、最初に作ったロング・スケールが792ミリでした。dragonflyの代名詞となるスケールは666ミリで、通常のストラトが628ミリなので38ミリ長い弦長ですが、チューニングを落としたときにアドバンテージがあります。ベースは通常34インチ・スケールで、海外メーカーだと35インチなどがありますが、若干運指のストレッチがしんどくなる。テンションのメリットがあるので35インチも製造していましたが、僕らは34.5インチのものを新たに作りました。プレイアビリティ的に34インチから大きな変化を感じることなく、チューニングやテンションの面で恩恵を受けられる。スケールのバリエーションが多いのも、他のメーカーさんと違う点だと思います。

アイコニックなモデルはBORDERやMAROONです。今はスウェーデンの会社、トゥルー・テンパラメントとタッグを組んで、トゥルー・テンパラメント・フレットを採用したモデルを開発中です。電子メーカーはチューニングの精度を上げるためにデジタル化してピッチ補正をしていますが、ギターは従来のフレットでは各弦がジャストでピッチが合うことは不可能です。弦長が長いとピッチはまだ安定しますが、基本的にコードはほぼ無理。

“ギターのコードはチューニングがズレている”と言ってしまえばそういうものなんですけど、他のデジタル楽器がジャストピッチなのに、ギターだけ狂っているのを許せる人もいれば許せない人もいる。で、1弦から6弦までどこで一番ピッチが合うかを点でつなげていくと、トゥルー・テンパラメント・フレットのような形状になるんです。オーセンティックなギターを使っている人からすると“邪道だ”という意見もありますし、これが正解でも最終形でもありませんが、一つの形としてトゥルー・テンパラメントとチームを組んで取り組んでいます。

「音楽をするにあたってみんなが感じている“不自由さ”を解消したい」

◾️GK5-KITの導入について

僕はもともと家具が好きなので、ギターだけでなく色々なものを作りたいという想いがありました。だから中学1〜2年生のとき、一番欲しかったギターがGS-500(1977年に登場した世界初のギターシンセ)でした。そんなギターは見たことがなかったし、欲しくても金額的に手が届かなかった。だからGS-500をきっかけに、ギター作りをやりたいと思ったんです。中学2年生のときに近所の人からもらった木をギコギコと削って、GS-500のコピーモデルを作りました。見よう見まねで縮小拡大して、広告に載っていた写真をカレンダーの裏に描いて、実際のサイズもわからないけど“こんなものだろう”と木を削っていったのが始まりです。

数あるギターの中でなぜGS-500だったのか。それは単純にビビッときたんでしょうね。1977年当時、ギブソンやフェンダーは経営的にも落ち込んでいてあまり魅力的ではなかったから、グレコのGOシリーズやアイバニーズのAR、アリアのRSなど、国産ブランドが輝いて見えたのは自然な成り行きだったと思う。僕はLed Zeppelin一辺倒でもなかったしQUEENも好きやった。ブライアン・メイなんかは自分でギターを作っているし、ヴァン・ヘイレンもストラトをバラバラにして自分で作っている。それが面白いと思ったからギター・シンセに興味を持ったのかな。

あとは純粋に、電子メーカーのローランドが新しい世界にチャレンジする姿勢、電気の力でギターをどうにかするパイオニア的な部分に惹かれたんだと思います。なんせ中学生の時から「Roland友の会」に入っていましたから(笑)。

Rolandさんとは、V-Guitarやギター・シンセのリレーションが始まった年にうちも手を上げて契約させてもらいました。ドイツ・フランクフルトで行われたメッセのRolandブースで、日本のギター・メーカーにGKピックアップをマウントしたものをディスプレイするという企画用にギターを作り、僕も一緒にドイツに行って。それこそ、792ミリの超ロング・スケールのギターにGKピックアップをマウントして持っていったんです。Rolandのデモ・プレイヤーの方もすごく喜んでくれて、JC-120のクリーン・トーンで1時間ぐらい弾いていたのが感動的でした。現存しているギター・メーカーの中で、僕が一番ギター・シンセに対して想い入れが深いと自負しています。

だからGK5-KITの話を聞いて、ついに動き出したんやなって。しばらくRolandさんもV-Guitarとかを開発していたけど、ギター・メーカーがもっと動かないと、エンジンだけ作ってエンジンを載せる車メーカーがあまり手を挙げない状況だったと思う。エンジンだけ作っても、載せてくれる車メーカーがいなければ宝の持ち腐れになる。そういう意味でも、うちはGK5-KITに対して食いつきが早かったと思う。“売れるならやる”という意識じゃなくて、売れようが売れまいが“やらなあかん”という気持ちです。僕からしたら天下のRolandだと思っているので。

「売れようが売れまいが“やらなあかん”という気持ちです」

◾️GK5-KITが示す新たな可能性

GK5-KITを取り付けたMAROON CUSTOM GK5は、既存のボディアウトラインを使用していますが、モデル自体は専用に作っています。レスポールなどのイメージを持たせたタイプなので、通常はチューン-O-マチックのブリッジを載せることが多いですが、マルチに対応できるように今回はシンクロ・タイプのユニットを採用しました。

MAROON CUSTOM GK5

既存のボディ・アウトラインのイメージに引っ張られないようにウッディなボディ(ブビンガ)に仕上げて、さらにアルミ削り出しのブルー・ノブを使用しています。BOSSのイメージがブルーですし、GK5-KITが載っていることをもっと主張したかったんです。例えば、ポルシェの黄色いブレーキ・キャリパーや、フェラーリのタイヤ・ホイールの中に見えるブレンボのロゴと同様、視覚的に“おっ!”と思わせるものがあると強い印象を与えますよね。こうした視覚的な工夫は大事で、ここ数年間はギターのフォルムを考慮してGKピックアップを目立たないようにしていたかもしれないけど、逆にGK5-KITの存在を前面に出したほうがいいと考えています。

それがたとえ2割の人だけに響いたとしても、その価値はあると思う。物作りは万人に受け入れられるものよりも、一部の人に強く響くものであるべきですよ。だから多少の無骨さがあってもいい。PCに貼られるインテルの認証シールも、インテルのひとつの意地やろうし。電子機器を牽引してきたRolandも、そのくらいの存在感を持たせるべきだと考えています。

GM-800の使い方はユーザー次第。オーケストレーションをしたい人もいれば、ギターの音をエフェクティブに発音させたい人もいる。ユーザーが独自の使い方をすることで、新しいムーブメントが生まれる可能性がありますよね。例えば6弦の1フレットから12フレットまでの音色と、12フレットから24フレットの音色を異なるものに設定することができるので、12フレットから下はコンガの音、上はティンパニの音を出すことも可能。通常のギター・アウトから音を出しつつ、デジタル化された音も同時に出力できるので、1人で複数の演奏をリアルタイムに行うことだってできます。

「GKが載っていることをもっと主張したかった」

このように多様な音楽表現が可能になり、異端な音楽家が駆使することで新しい音楽が生まれるでしょう。僕たちが想定していないような発想が世の中にはたくさんあり、それを呼び起こすのはユーザー自身です。GM-800を使った新たな音楽表現が生まれることを期待しています。

(Writing & Photography Motomi Mizoguchi)

BOSS Japan

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