Serial GK Partners: T’s Guitars

Serial GK Partners: T’s Guitars

1987年、長野県・塩尻市にて設立された株式会社ティーズギター。その前に2年間、前身となる小さな工房を営んでいたため創業自体は1985年、来年で創業40周年を迎える。OEM、リペアなどを中心に確かな技術とノウハウを獲得し、2000年前後にT's Guitarsとしてオリジナル・モデルを製作。人気かつロング・セラーのディンキー・ストラト「DST」を主軸に、メイプル・トップ/マホガニー・バックのセット・ネック構造を持つ「Arc」など、実直でありながら弾き手を第一に考えた高品質なモデルを展開。近年ではネット系ギタリストの愛用からさらに存在感を増し、国産ハイエンド・ブランドとして確固たる地位を確立している。今回、フラッグシップ・モデル「Arc-STD」のシェイプとコンセプトをベースに、よりソリッドで剛性感のあるサウンド・キャラクターを目指した「VENA」にGK5-KITを搭載したVena-24 GK5が完成した。

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1977年、記念すべき世界初のギターシンセRoland GR-500が発売。エポックメイキングな製品の登場により、先鋭的なプレイヤーたちによってギター表現は新たなステージへと突入することになる。その後、初のポリフォニック(和音)に対応、さらにシンセサイザー・ドライバーGK-2の登場によって自身のギターに搭載可能となるなど、正統な進化を遂げてきたギター・シンセ。2023年、新たに新方式のデジタル伝送を採用した「シリアルGK」の登場によりギターやベース本体に内蔵できるGK5-KITシリーズがラインナップ。音源コントロール用スイッチとボリューム、ノーマル・ギター出力機能の追加、7弦ギターへの対応など普遍性も追求。多様化する現代の音楽シーン、制作環境に対応するアイテムへとビルドアップしている。この記事では、GK5-KITシリーズを導入するギター/ベース・メーカーを取材。導入を決めた理由やGK5-KITシリーズが秘める可能性について話を伺った。

◾️ブランドが掲げるポリシー

株式会社ティーズギターは設立当初からオリジナル商品があったわけではなく、リペアとOEMの製造からスタートしました。当初は10年ぐらい経ったら自分のブランドをやりたいと考えていましたが、1997年に会社の塗装場から出火し一角が全焼。修理でお預かりしたお客様のリペア品も火事で燃えてしまいました。OEMでノウハウを蓄積し、製造本数も増えてきた矢先の出来事でした。

もう続けられないかもしれないと思い、お客様にお詫びしたところ、「待っているので、再起してギターを作れるようになったら1本作ってください。それで良いので」と応援の言葉をいただきました。お客様の声を聞いて、もう一度ギターの製作を頑張らなければならないと強く思ったんです。その後、半年ほどで何とか工場を再建。同時に以前のようなOEMの大量生産ではなく、お客様一人ひとりにフォーカスしたカスタム・ギターを作りたいと思うようになりました。OEMは今でも継続していますが、その火事をきっかけに軸足を変えて、自社製品をお客様に届けようという気持ちが強くなったんです。

有限会社 ティーズギター 代表取締役社長 高橋謙次氏

T’s Guitarsブランドの製品を作り始めたのは2000年前後です。最初から作ったものが順調に売れたわけではありません。サンプルを作ってお店を回り、置いていただくところから始めましたが、なかなか置いてもらうことができませんでした。後発のメーカーなので、他社と違う魅力を持たなければならないと思い、付加価値をつける方法を模索しました。その中で行き着いたひとつの要素が、バズ・フェイトン・チューニングです。

アメリカのバジー・フェイトン氏が考案したシステムで、当時日本では取り扱っているところがなかったので、2002年にアメリカへ行きレクチャーを受けて公認を受け、バズ・フェイトン・チューニングを採用しました。バズ・フェイトン・チューニングはT’s Guitarsを構成する数ある価値のひとつですが、こうした付加価値を重ねていくうちに徐々にブランド・イメージが出来上がっていったと感じています。

T’s Guitarsが掲げるポリシーは、一人ひとりに向き合ったモノづくりです。ギターをプレイするお客様に、より良い道具として高品質な楽器を提供する。そのために、T’s Guitarsのラインナップはスタンダードであるべきだと思っています。奇抜なアイデアを盛り込むよりも、多くのお客様に受け入れられる楽器作り。ベーシックなスペックでありながら、各部のクオリティを極限まで高めていく。お客様それぞれに合ったスペックやルックスのギターを提供することで、音楽人生をより豊かにすることがポリシーです。

一人ひとりに向き合ったモノづくり

◾️GK5-KITの導入について

自社ブランドを始める前、リペアや改造を行っていた時期からギター・シンセとの接点はありました。当時活躍していたギタリストの影響でGKピックアップをつけたいという人も少なからずいて、そういったお客様の要望に応えるうちにギター・シンセの可能性を感じるようになりました。私自身、1990年代からギター・シンセに興味を持っていてGKピックアップ搭載ギターの修理をしていましたが、当時は外付けのGKピックアップを改造して取り付けていたと思います。昔はシステムが大がかりで、G-707のようにスタビライザーのついたものもありましたが、今では手軽に使えるようになりました。

Roland GR-700
Roland G-707

ギター・シンセはひとつのジャンルとして可能性を持っています。ギター・シンセ自体のピックアップや音源も進化しており、初期の頃に比べて使いやすくなっています。GK5-KITの製品発表を聞いたとき、その進化に感動しました。13ピンでしか実現できないと思い込んでいたものが、新しい形で進化していくことは素晴らしいことです。

RolandさんからGK5-KITをご紹介いただいて、すぐに飛びつきました。カスタム・メイドの工房として常に新しいものにアンテナを張っているので、今回もその流れで導入させていただくことになりました。お客さんからお問い合わせをいただく中でギター・シンセの話も出てきますし、自分としても新しいものが出たのであれば見てみたい、使ってみたいという気持ちがすごくありますので。

Vena-24 GK5

基本的にはどのモデルもGKピックアップの搭載が可能ですが、今回はオリジナル・シェイプのVENAに搭載しました。基本的にはどのモデルにも要望があれば搭載可能です。取り付けには木工部分の工程が1〜2工程増えます。GKピックアップの取り付けとコントロール部分の追加がありますが、過去に経験があるため特に作業面で苦労することはありませんでした。まずはVena-24 GK5を製作し、オーダーがあればお客様のギターに後付けで載せるといった対応も可能です。

GK5-KITの進化に感動しました

◾️GK5-KITが示す新たな可能性

GK-3を何度も試した経験があるので、GK5-KITも基本的にはその延長線上にあるものだと感じています。ケーブルのことも含めて、お客様が気軽にトライできる製品になっているので、多くの方にぜひ試していただきたいですね。自分のギターに取り付けるのはお金も労力もかかるため、二の足を踏んでいる方もいらっしゃると思いますが、新しい体験をしていただきたいという気持ちが強いです。

ギターやベース、キーボード、ドラムが集まってバンドをやる形態と、1人でパソコンに向かって音楽をクリエイトしていく形態がありますが、現在では1人でパソコンに向かって音楽を作る方が増えていると思います。そういった方々にとって、ギター・シンセは打ち込みに使うのに最適です。パソコンに音楽を入力するトリガーとしてギターを使うことも簡単になりますし、ギター・シンセとしていろいろな音を出せるので無限の可能性が広がると思います。

海外のクリエイターはギター・シンセを積極的に導入しているので、日本でもまだその余地があると思います。ギターというアナログな楽器からデジタルのサウンドが出るのは本当に新しい世界です。昔のギター・シンセは音のトラッキング・エラーやディレイがあって不便な面もありましたが、GM-800はそうした問題が改善されており楽しみやすく進化しています。

新たな曲や音楽を創造するツールになることを願っています

今回、T’s GuitarsとBOSSが協力し、この新しいハードウェアを通してひとつの楽器が出来上がりました。ぜひ多くの方に試していただき、その可能性を感じていただけると大変嬉しいです。新たな曲や音楽を創造するツールになることを願っています。

(Writing & Photography Motomi Mizoguchi)

BOSS Japan

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