ギター・シンセサイザーの完全ガイド

ギター・シンセサイザーの完全ガイド

ギター・シンセサイザーの世界に触れ、パワフルな音を生み出すクリエイション・ツールの歴史とテクノロジーについて学びましょう。

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70年代に初めて登場したギター・シンセサイザーは、実に長い道のりを歩んできました。ギターに内蔵された初期のシンセ・モジュールやMIDIの誕生から、シンセサイザー音源のシステムであるZEN-CoreやシリアルGKのシステムまで、BOSSとRolandのたゆまぬ革新と技術の進歩により、ギター・シンセサイザーは進化し続けています。ギター・シンセサイザーの世界に触れ、パワフルな音を生み出すクリエイション・ツールの新境地を覗いてみましょう。

シンセサイザーとは?

ギター・シンセについて語る前に、シンセサイザーの意味を確認しておきましょう。シンセサイザー(またはシンセ)は、電子的に生成された多様な音を作り出すことができる楽器です。誕生した当初、シンセはアナログ回路を使用しており、正弦波(サイン波)、三角波(トライアングル波)、ノコギリ波、矩形波(スクエア波)などの単純な波形を生成していました。ユーザーはフィルター、ピッチ・モジュレーション(ビブラート)、エンベロープを介して、これらの波形を加工することができました。そうして出来上がった音が、アコースティック楽器の世界を再現していたわけではありません。

初代のRoland SH-101は、アナログ・シンセサイザーを代表する機材です。演奏者は鍵盤の下にスイッチがあるキーボードを使用して、これらの楽器を操作しました。スイッチはどの音程を鳴らすか、それぞれの音をいつ始め、いつ終わらせるかを指示するためのものでした。

シンセシス(合成)の進化

手頃な価格のデジタル技術が導入された後、シンセシスの手法はさらなる進化を遂げます。ウェーブ・テーブルや周波数変調(FM)から、サンプルベース・シンセやフィジカル・モデリングまで、様々な手法が登場しました。サンプルベース・シンセでは、初期のアナログシンセのような単純化された波形オシレーターの代わりに、実際の楽器が個々の音を演奏している様子を短く録音したものを使用しています。

ユーザーはエンベロープやフィルターを使って、最終的な音の微調整ができるようになりました。サンプルとして取り込める楽器の種類に制限はありません。これらのシンセサイザーでは、様々なアコースティック楽器や人間の声の音の再現が可能となったのです。そのため、抽象的な音に限定されることがなくなりました。また、初期のシンセのピッチやノートのオン/オフ機能に加えて、デジタル楽器はベロシティに反応するように設計されています。これにより、演奏者はピアノのような演奏のダイナミクスを実際に取り入れられるようになります。

「シンセサイザー(またはシンセ)は、電子的に生成された多様な音を作り出すことができる楽器です」

MIDIの導入

デジタル時代の到来とともに、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)が登場しました。MIDIは音楽用の電子通信規格で、Rolandはこのプロトコルの創始者の1人です。キーボードやコンピューターなどのコントロール機器から、MIDIインとMIDIアウトに指定されたケーブルを介して、1つまたは複数の楽器(またはエフェクトなどの他の機器)に情報を伝送します。

MIDIは多くの有益な情報を伝えることができる点に注目することが大切です。MIDIは楽器に、どの音をいつ、どのくらいの音量で演奏すべきかを伝えることができます。さらに、様々なサウンド・パッチを選択したり、コントロールにリモート・アクセスしたり、ピッチ・ベンドやモジュレーションの情報を伝えたりすることも可能です。また、1つのMIDI CHで最大16台の接続されたデバイスを同時に操作することができ、それぞれを異なるチャンネルに設定できます。

ギター・シンセサイザーとは?

MIDIコントロールはスイッチが曖昧でない情報を生成するため、鍵盤楽器として最適です。従来のエレキギターやベースからシンセサイザーを操作するというわけではありません。ギター・シンセサイザーの発展は、様々な方向へと枝分かれしています。

操作する楽器の中には、音符の指使い以外にギターとの共通点がないものもあります。指板に物理的なスイッチを組み込んだ楽器もあります。また、フレットがスイッチになっているものや、フィンガリングとピッキング用に弦が分かれているタイプもあります。Rolandのコントローラーはシンセサイザーのコントロールに加えて、従来のエレキギターに似た形をしています。

「1970年代のギター・シンセGR-500は、6つの小さなピックアップを1つのユニットに収めたディバイデッド・ピックアップを搭載していました」

ディバイデッド

ギターでシンセサイザーを操作する際に、技術的な課題がよく取り上げられます。キーボードと異なり、シンセにどの音を鳴らすかを指示する簡単なスイッチは付いていません。そのため各弦のピッチを測定し、ピッキングのタイミングを検出する必要があります。Rolandが1970年代のオリジナル・ギター・シンセGR-500で採用してきたアイデアです。このディバイデッド・ピックアップは、1つのユニットに6つの小型ピックアップを内蔵しています。

従来のギター・ピックアップからの出力は、6本の弦全てからの音がミックスされるため、非常に複雑です。各弦ごとに独立したセクションを持つピックアップを使用することで、各信号を独立して処理することができます。ギターの弦は一度に1つの音しか出せません。そのため、同時に演奏している6つの音から音程を抽出するよりも簡単に処理することができます。

GR-500の処理は全てアナログでした。現在ではデジタル処理のアルゴリズムにより、ギター弦のピッチをより正確に、明らかな遅延なく読み取ることができます。抽出されたピッチ、タイミング、ラウドネスはMIDIデータに変換され、MIDI対応のシンセサイザーを操作することができます。その結果、ギターから演奏できるサウンドの種類に制限はありません。一般的なギター・シンセサイザーは一連のサウンドを備えています。しかしMIDIを活用することで、他のシンセサイザーも操作することができます。

「一般的なギター・シンセサイザーは一連のサウンドを備えています。しかしMIDIを活用することで、他のシンセサイザーも操作することができます」

Rolandとギター・シンセサイザーの歴史

1977年、アナログ・ギター・シンセGR-500が登場したことにより、Rolandとギター・シンセの歴史は歩みを始めました。この楽器には、従来のギター・ピックアップと各弦からの信号を分離するためのディバイデッド・ピックアップが搭載されています。パッド、ベース、リード・セクションがあり、外部モノ・シンセを駆動するためのコントロール電圧を出力することができました。また、無限のサスティーンを得るために、弦を振動させ続ける電磁石システムも搭載されています。

次に登場したGR-300は、弦楽器からの波形をノコギリ波ジェネレーターのトリガーとして使用しています。フェイズ・ロック・ループと呼ばれる電子回路に基づく巧みなピッチ・シフト技術が特徴でした。GR-300はシンプルな操作方法が用いられており、主に擬似弦楽器と擬似ブラス・サウンドを生成します。標準的なギター奏法によく反応し、使いやすさが魅力でした。1984年に発表された未来的な形状のGR-700は、専用ギターを必要とするギター・シンセとなりました。

ギター・シンセのGRシリーズは、演奏者の大半がギターにマウントできる分割ピックアップ・システムと互換性のあるハードウェア・ユニットとして継続されました。2011年に発売されたGR-55は、現代のミュージシャンにとっても魅力的なアイテムです。GR-55が根強い人気を誇る理由のひとつは、GRならではのサンプル・ベースのギター・シンセサイザーとVG由来のギター、アンプ、FXモデリングを1台にまとめた、優れた操作性が挙げられます。

「Rolandの初代から3代目に渡るGRギター・シンセ登場の後、次なる目標は事実上どんなギターにも対応する分割ピックアップとコントロール・ボックスの実現でした」

ディバイデッド/GKピックアップとは?

Rolandの初代から3代目に渡るGRギター・シンセ登場の後、次なる目標はブリッジの近くに取り付けられるスペースさえあれば、事実上どんなギターでも使える分割ピックアップとコントロール・ボックスの実現でした。これをGKピックアップと呼び、6弦用とベース用が完成します。GKシリーズは度重なる改良が施されましたが、現役の製品として人気を博しています。この技術はピックアップと小さなコントロール・ボックスで構成されており、演奏者はギターのストラップ・ボタンやギター本体に固定することができます。

これは13ピンDINケーブルで信号を出力します。GR-1以降のRoland GR全モデルと、GKピックアップを必要とするBOSS SYシリーズ・ギター・シンセサイザーと互換性があります。GKピックアップは、次のセクションで説明するRoland VGシリーズのプロセッサーとも互換性があります。

ギター・シンセサイザーの種類

RolandとBOSSのギター・シンセサイザーには、大きく分けて2つの種類があります。最も精巧なのはGRとGMで、MIDIに対応し、サンプル・ベースのサウンドを内蔵しています。もう1つの種類はSYシリーズ(またはコンパクトなペダル・フォーマットに凝縮されたもの)で、ギターの弦そのものから出る波形を改造し、ギタリストに馴染みのあるコンパクト・エフェクトに近い体験を提供します。SYサウンドはギター演奏のダイナミクスに追従し、より抽象的なアナログ・シンセ・スタイルの音を生成します。

「SYサウンドはギター演奏のダイナミクスに追従し、より抽象的なアナログ・シンセ・スタイルの音を生成します」

VG シリーズ・プロセッサー

COSM(コンポジット・オブジェクト・サウンド・モデリング)は、新しいタイプのギター・シンセ技術です。これは1995年に発売されたVG-8ギター・プロセッサーで初めて採用され、2000年にはVG-88が登場します。注目すべき点は、VGシリーズ・プロセッサーはシンセサイザーが主体ではなく、様々なギター・ピックアップ、アンプ、エフェクトをモデリングする手段であったことです。ただし、COSMシンセのような音もいくつか含まれています。VGシリーズの最新プロセッサーは2010年にリリースされたVG-99です。

COSMは各弦のピッチを抽出して制御データを生成するのではなく、弦の振動そのものを利用しています。振動を倍音成分に分割し、それらを別々に処理します。この場合でも、GK対応の分割ピックアップを搭載したギターが必要です。COSMは伝統的な奏法に対して自然な反応を見せる、アナログ調のシンセ・サウンドを生成することができます。個々の弦信号にアクセスすることで、VGプロセッサーは個々の弦のピッチ・シフトを使い、ギターを再度チューニングすることなく、12弦の音や様々なオープン・チューニングを作り出すことも可能です。

BOSS SY シリーズ

SY-200SY-300SY-1はいずれも通常のギターで動作します。SY-1000に関しては、その能力を最大限に発揮するためにGKピックアップ・システムを搭載したギターが必要となります。通常のギター入力では、GR-300のような音が鳴ります。

2015年に発売されたBOSS SY-300は、分割ピックアップを必要としない初のギター・シンセです。高度なデジタル処理により、弦楽器から出力されるハーモニクスを再構築しています。フィルター、ピッチ・シフター、エンベロープによる処理は、幅広いアナログ・シンセ・サウンドを奏でることができます。BOSS SY-300を使えば、こうした音をコンパクト・エフェクターのような操作感で作り出すことが可能です。演奏テクニックを変える必要がないため、複雑なギター・シンセを敬遠しがちなギタリストにも魅力的なツールでしょう。SY-200やSY-1などの小型ペダルも、SY-300と同じテクノロジーを採用しています。簡単にシンセ・サウンドにアクセスでき、GKピックアップを装着したくないギタリストにおすすめです。

SY-1000にはダイナミックなアナログ調のサウンド、ギター・モデリング、オルタネート・チューニング、高品位なプリアンプ、フラッグシップGT-1000譲りのエフェクトなど、先進的な機能を多数搭載しています。

後期のSY-1000モデルには、SY-300のテクノロジーが盛り込まれるようになりました。ただし、GKピックアップを必要とするシンセ・セクションも搭載されています。ギターとキーボードの世界にまたがるシンセ・サウンドを生み出す、SY-300とSY-1000。有機的な音のSYギター・シンセからの出力は、演奏テクニックの変化に反応します。通常、基本的なアナログ・キーボード・シンセよりも複雑な音色を奏でます。ペダルはノート・ベンドやビブラートに自然と従います。全体的にこうしたシンセはMIDIサウンドをトリガーするものよりも、大雑把な演奏スタイルに適しています。ストリングス、シンセ・パッド、アナログ・リード、シンセ・ベース、ブラス、オルガンなどの音を再現できます。

「GM-800は、サンプル・ライブラリーに基づいた幅広い自然音や抽象的な音を誇り、Roland Cloudと連携しています。」

BOSS GM-800 

GM-800では、TRSジャックを使用した新しいシリアル接続プロトコルをディバイデッド・ピックアップに採用しています。また、既存のGKピックアップをGMシリーズのシンセサイザーで動作できるようにするコンバーターも販売されています。

新しいGMシリーズ・シンセの第一弾であるGM-800は、サンプル・ライブラリーに基づいた幅広い自然音や抽象的な音を誇り、Roland Cloudと連携しています。音の生成面では、サンプル・ベースのMIDIキーボード・シンセと同様のバリエーションを提供し、アナログ・シンセの再現も効果的に行います。裏では、新しいピッチ・トラッキング・アルゴリズムが、レイテンシーを感じさせない正確なピッチ検出を実現しています。さらに、GM-800はZEN-Core対応の楽器の仲間入りも果たしています。

BOSSはギター・シンセシス・システムの世界で革新を続けています。EURUS GS-1では、BOSSはその高度なシンセ・エンジンを高品質なエレクトリック・ギターに搭載しました。この楽器により、ギタリストはオーバードライブを使うのと同じくらい簡単に、様々なシンセ音を利用することができます。EURUS GS-1は、BOSSの技術を基盤にしながら、ギター・シンセの新しい風を吹き込んでいます。

ギター・シンセを使用する

Andy SummersやRobert Frippから、MuseのMatt BellamyやTame ImpalaのKevin Parkerまで、多くのミュージシャンに愛されているギター・シンセは、バンドの音をテクスチャード・パッドで豊かにし、鋭いリード・トーンを生み出すことができます。従来のテーブルトップ・シンセと同様に、ギター・シンセは数回のクリックで音色の世界を広げることができます。ギタリストがアンサンブルの中心的な楽器である場合、このような幅広いオプションによって、楽曲の世界観を形作ることが可能です。それとは対照的に、ソロ・プレイヤーはギター・シンセを使ってサウンド・ランドスケープ全体を作り上げることができます。

ギター・シンセの選び方

実際にギター・シンセを選ぶには、どうしたらいいでしょうか?シンセ・スタイルのパッドやリード、ベースをシンプルかつコンパクトに作りたいのであれば、SY-1ペダルが最も相応しい選択です。121種類の実用的なシンセ・サウンドを提供し、いくつかのコントロールで調整することができます。最高のサウンドを実現させるためには、エフェクト・チェーンの最初に配置すると良いでしょう。

「特定の楽器の音を再現する必要があるプレイヤーには、GM-800のようなサンプル・ベースのユニットが理想的でしょう」

SY-200とSY-300は、同様に自然な演奏体験で音色の柔軟性を提供します。より洗練されたアナログ調の音を求めるなら、次のステップとしてSY-1000が最適です。特定の楽器の音を再現する必要があるプレイヤーには、GM-800のようなサンプル・ベースのユニットが理想的でしょう。どのような使い方をするにしても、ギター・シンセはサウンドメイクの可能性を無限に広げてくれます。

Paul White

Sound on Soundで30年に亘って編集者を務めたのち、現在ではSOS Publicationsのエグゼティブ・エディターを担当。また、映画劇伴のようなチルアウト・ミュージックを制作するCydonia Collectiveのメンバーでもある。