FZ-1W

BOSSファズ・ペダル の原点

2021年12月、「技WAZA CRAFT」FZ-1W Fuzzのリリースにより、BOSSは1960年代のサイケデリック・ロックのルーツと邂逅を果たします。ファズ・ヒストリーの全貌を紐解いていきましょう。

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1977年、BOSSはOD-1 OverDrive、PH-1 Phaser、SP-1 Spectrumを発売。これらのコンパクト・エフェクターは一夜にして登場したかのように思われますが、実際はそうではありません。長年の経験と丹念な研究によって生み出されたものなのです。すべては、1960年代におけるファズの登場から始まりました。BOSSは「技WAZA CRAFT」FZ-1W Fuzzのリリースにより、サイケデリック・ロックのルーツと邂逅を果たします。

OD-1, PH-1, SP-1

画期的な遺産

BOSSのコンパクト・エフェクターは、今では当たり前のように使われています。ギター界の他のアイコンと同様にとても身近な存在であるため、その革新的なデザインに目を向けることはほとんどありません。しかし、1977年に登場したBOSSのコンパクト・エフェクターは、まさに画期的な存在です。このペダルは、いくつかの面でコンパクト・エフェクターの水準を引き上げました。一貫性、信頼性、完成されたデザイン、そして最良な音質。BOSSは、その後のコンパクト・エフェクターの“指標”となったのです。

しかしBOSSは、品質に関する新たな基準を打ち立てただけではありませんでした。これらのコンパクト・エフェクターは、新しいサウンドのみならず新しい“言語”さえも開拓しています。例えば、1976年にBOSSが初めて発表したペダル、CE-1 Chorus Ensembleが登場するまでは誰も“コーラス・ペダル”が何であるか知りませんでした。同様に、“オーバードライブ”という言葉が一般的に使われるようになったのは、1977年に登場したBOSS初のコンパクト・エフェクターOD-1 OverDriveの後です。

"オーバードライブという言葉が一般的に使われるようになったのは、1977年に発売されたBOSS OD-1 OverDrive以降である"

ファズの原点

1960年代はギター用エフェクター全盛の時代で、1962年には最初のファズ・ペダルMaestro Fuzz-Tone FZ-1が登場しました。Maestro Fuzz-Tone FZ-1/FZ-1AをベースにしたFM-1 Fuzz Masterは、ファズ・エフェクトを日本のギタリストにとって身近な存在にしたのです。しかし、同時にイギリスやアメリカ製のペダルの流通量の少なさも感じていました。   

1960年代後半、日本ではサイケデリック・ロックのサウンドに特化したペダルが数多く誕生します。Shin-ei のPsychedelic Machineは、オリジナルのFY-6、Super Fuzz、Uni-Vibe回路からなるマルチ・エフェクター。Honey のファズ・ペダルBABY CRYINGとともに、ギター・エフェクターの進化に多大な影響を与えたのです。

音楽史におけるファズ

FY-6 Super Fuzzの回路は、多くのペダルを生み出すきっかけになりました。その中で最も有名なブランドは、アメリカのUnivoxでしょう。Univoxのペダルは、当時、影響力のあったギタリストたちを熱狂させました。The WhoのPete TownshendはSuper Fuzzを使用し、Jimi Hendrixは時代を超越するUni-Vibeのサウンドで、半世紀を経た今もギタリストにインスピレーションを与え続けています。ファズ全盛の時代、日本のギタリストたちがRolandのエフェクターを手に入れるまで、それほど時間はかかりませんでした。

The Who, Photo by Heinrich Klaffs
The Who, Photo by Heinrich Klaffs (Creative Commons)

"1960年代後半、日本でサイケデリック・ロックサウンドに特化したペダルの数々が誕生"

BeeBaa AF-100, BeeGee AF-60
BeeBaa AF-100, Photo by Terekhova, (Creative Commons)
BeeGee AF-60, Photo by Roadside Guitars, (Creative Commons)

BeeBaa、BeeGee、そしてその先へ

Roland初のエフェクターは、1972年に登場したAF-100 BeeBaaです。EFFECT/NORMAL、FUZZ/TREBLE BOOSTERと書かれたスイッチ、VOLUME、TONE、SUSTAINを備えたファズ・コントローラーを搭載し、独特なカラーの筐体に身を包んでいます。さらにBeeBaaはFUZZ/TONE SELECTと書かれた3つ目のスイッチを搭載しており、Super Fuzzと同様に2つの異なるトーン・スタイルを持ち、様々なファズ・サウンドを探求することを可能にしました。

Rolandは、エフェクターにユニークな名前を付けるという当時のトレンドに乗り、AD-50 Double Beat Fuzz/Wah、2ノブのAF-60 BeeGee Fuzzという2機種をリリース。初期のAシリーズを充実させました。AF-60 BeeGee Fuzzはヴィンテージ市場でも人気が高く、ガレージロック・ファズのようなサウンドを再現することが可能と評判です。

“カラフルなネーミングのエフェクターが好まれた時代の流行に乗ったAF-60 BeeGee Fuzz”

Chorus Ensemble and BC-1

時代の変化に伴う音色の変化

エレキ・ギターの人気は衰えることを知りませんでした。そこでRolandはエレキ・ギターに注力し、“BOSS”という社名で新たなスタートを切ります。その名は、アコースティック・ギター用のプリアンプBOSS B-100 The Boss Preamplifierに由来。BOSSのロゴはケースには見ることができますが、当時はまだ本体には印字されていません。1976年のB-100発売以降も、Rolandブランドのペダルは存在していましたが、その後登場するコンパクト・ペダル・シリーズは、既存のデザインをすぐに凌駕しました。

1970年代後半になると、音楽の嗜好は急速に変化していきます。もちろん、ファズの人気は衰えませんでしたが、もはや最先端のペダルではありませんでした。BOSSのエンジニアたちは、新しいサウンドの創造に力を注ぎます。1976年半ばにCE-1 Chorus Ensemble、同年にはEdward Van Halenお墨付きのGE-10 Graphic Equalizerを発表し、新しいサウンドを果敢に開拓していくのです。

“音楽の嗜好が目まぐるしく変化する1970年代。BOSSは新しいサウンドの開拓に注力する”

新たな繁栄

1977年に登場したコンパクト・ペダル・シリーズは、新しい時代の幕開けを告げるものでした。1980年には大型のBOSS Driver DB-5が製造中止となり、一時的にファズがカタログから姿を消しました。そして、1980年代にはSD-1 Super OverDriveやDS-1 Distortionなど、新たなコンパクト・ペダルが市場を席巻するようになります。

1980年代後半から1990年代初頭にかけて、“グランジ”と呼ばれる新たなジャンルのバンドが音楽シーンを席巻。Dinosaur Jr.やMudhoneyなどのバンドは、新たな世代にファズを浸透させギター界の活性化に貢献しました。Dinosaur Jr.のJ. Mascisはファズ・ペダルの熱心なコレクターとして知られており、その飽和したようなサウンドがそれを証明しています。Dinosaur Jr.の初期のアルバム『Bug』や『You’re Living All Over Me』は、まさに“ファズトピア”への旅と言えるでしょう。シアトルのバンド、Mudhoneyが1988年に発表したデビューEP『Superfuzz Bigmuff』は、彼らが好むエフェクターを想像するには充分なものでした。

J. Mascis of Dinosaur Jr., Photo by Dit is Suzanne
J. Mascis of Dinosaur Jr., Photo by Dit is Suzanne (Creative Commons)

“Dinosaur Jr.やMudhoneyといったバンドは、新しい世代にファズを浸透させ、ギター界を活性化させた”

FZ-2
Photo by Terekhova, (Creative Commons)

ファズの再燃

昔ながらのファズに対する需要の高まりに応え、BOSSは1993年に1960年代の伝統に回帰したFZ-2 Hyper Fuzzを発売。BOSS初のコンパクト・ペダルタイプのファズで、Fuzz IとFuzz IIと名付けられたデュアル・モードが特徴です。LEVEL、GAIN、TREBLE、ベース・トーンのCUT/BOOSTコントロールを搭載し、フレキシブルなファズ・サウンドの構築を可能にしました。

さらにFZ-2 Hyper Fuzzは、実用性の高いGAIN BOOSTモードを搭載。これは、ゲインをさらに積み重ねたい場合や、歪んだアンプをナチュラルにクランク・アップさせるために便利な機能でした。1997年に製造中止となりましたが、BushやElectric Wizardといったアーティストがこのモダン・クラシックなペダルを愛用。現在では中古市場でも高い人気を誇ります。 

1997年、Hyper Fuzzの後継機種としてFZ-3 Fuzzが登場。レトロなシルバー・メタリック仕上げによる、BOSSコンパクト・ファズ・ペダルの第2弾です。FZ-3 Fuzzは、1960年代ファズの典型的なトーンを基本に忠実に再現しています。LEVEL、FUZZ、TONEというシンプルな3つのノブを配置し、ヴィンテージ感溢れるサウンドを放ちます。1999年に製造中止となったFZ-3 Fuzzは、生産された期間が短かった為、コンパクト・エフェクターの中でも知られざるモデルの1つです。しかし、Red Hot Chili Peppersの名高いアルバム『Californication』時代には、John Fruscianteがこのペダルを使い続けていました。

1999年に製造中止となったBOSS FZ-3 Fuzzは、生産された期間が短かった為、コンパクト・エフェクターの中でも知られざるモデルの1つ

COSM

BOSSコンパクト・ペダルシリーズ第3弾のファズは、2007年にFZ-5 Fuzzとして登場。1990年代半ばに、BOSSとRolandが共同開発したデジタル技術“COSM(Composite Object Sound Modeling)”を応用したものです。FZ-5 Fuzzは、著名な3種類のエフェクターの特性を正確にモデリングしています。それはFazz Face(モード:F)、MaestroのFuzz Tone FZ-1(モード:M)、Octavia(モード:O)です。

モードOは、エフェクターの第一人者であるRoger Mayerが1960年代にJimi Hendrixに提供し、「Purple Haze」で初めて耳にしたエフェクトOctaviaを想起させるサウンドです。モードFとMは、ゲルマニウム・トランジスタによるヴィンテージ・ファズを再現。もちろん、ゲルマニウム・トランジスタに付随する多くの欠点もなく再現されています。

FZ-5
Photo by Ari Rosenschein

“TB-2Wのコラボレーションは、ヴィンテージとモダンの両方の良さを手に入れられることを証明”

TB-2Wの誕生

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネットの普及により世界中のファズ愛好家がその知識とノウハウを共有するようになりました。つまり、より多くの人がファズの魅力に目覚め、独自のカスタムを施して使用するようになったのです。この新時代の到来を告げるのが、BOSSコンパクト・シリーズのファズ・ペダル第4弾、「技WAZA CRAFT」の TB-2W Tone Benderです。

2020年末に発表され、世界限定3,000台で出荷されたこの希少なペダルは、イギリス・ロンドンの伝説的なブランド、Sola Sound社とのコラボレーションによって実現。本格的なファズ回路を、BOSSユーザーが満足するような一貫性と品質で実現することがいかに難しいかを証明しています。

BOSSカンパニー社長の池上嘉宏氏は、ゲルマニウム・トランジスタを扱うことの困難を次のように語りました。「最初の課題は、ゲルマニウム・トランジスタの調達でした。また、これだけの量のゲルマニウム・トランジスタをどうやって購入するかということです。このような希少なパーツを使用するのは初めての経験で、2年以上にわたり多くの時間と人手を費やしました」

TB-2W Tone Benderは量産が困難なモデルでしたが、エフェクターの歴史に残る画期的なものでした。BOSSのコンパクト・エフェクターと、1960年代のブリティッシュ・ファズ界の伝説的なペダルを見事に融合させたのです。このコラボレーションは、ヴィンテージとモダンの両方の長所を得ることが可能であることを証明しました。

TB-2W and Vintage Tone Bender
TB-2W Tone Bender

"FZ-1Wは既存のユニットをベースにしたものではなく、ファズの原点にインスパイアされたオリジナル"

FZ-1W Fuzz

新たな表現方法

ヴィンテージとモダンをテーマにした「技WAZA CRAFT」シリーズの最新作、FZ-1W Fuzz。BOSSのエンジニアによる徹底的な研究により、V(Vintage)とM(Modern)の2つのモードが搭載されています。1960年代のヴィンテージ・ファズペダルの挙動やレスポンス、サウンドの特徴を研究し、それらの結果をもとに開発されました。FZ-1W FuzzのVモードはまろやかで、Mモードはよりゲインが高く、中音域にフォーカスした現代的なプレイ・スタイルに対応します。

FZ-1W Fuzzは入力インピーダンスに依存せず、卓越したタッチ・レスポンスと充分なサスティンを備え、ギター側のボリューム・コントロールでクリーン・アップすることができます。そのため、旧来のファズ・ペダルとは異なり、シグナル・チェーンのどこに配置してもその珠玉のトーンを維持することができます。さらに、安定した動作を実現するシリコン・トランジスタ回路の採用し、超低ノイズで電源/バッテリーや温度による音色の変化にも強いという特徴を持っています。

FZ-1W Fuzzは、数十年にわたるノウハウを結集し、新たな視点からヴィンテージ・ファズを再定義したものです。他の「技WAZA CRAFT」ペダルとは異なり、FZ-1W Fuzzは既存のユニットをベースにしていません。BOSSエフェクターの源流であるファズの原点からインスパイアされた、まさに“オリジナル”と言えるペダルなのです。

Rod Brakes

BOSSのブランド・コミュニケーションおよびコンテンツ企画担当。過去にはGuitar WorldやMusic Radar、Total Guitarを始めとする数々の音楽メディアでの執筆経験があり、アーティストや音楽業界、機材に関する幅広い知識を持つ。彼自身も生粋のミュージャンである。