ここでは、ディレイ・ペダルを巧みに操る最も人気のあるアーティストとその象徴的なサウンドを検証してみましょう。そして、彼らのペダルや音色を再現する方法を探ります。今回取り上げるのはEddie Van Halen、John Mayer、John Frusciante、The Edge、David Gilmour, Brian May、Slashの計7アーティストです。また、Bloc Party、The Verve、Mars Volta、The Temper Trap、Tame Impala、Radioheadといったアーティストの活用法も紹介します。この革新者たちがどのようにディレイを使い、独特な音のアイデンティティを確立し、記憶に残る音楽の魔法を生み出したのか、その秘密に迫ります。
Eddie Van Halen
Eddie Van HalenはVan Halenの最初の2枚のアルバムでEchoplexのディレイを使用し、その後はRolandのSDE-3000へと移行しました。彼は、3つのキャビネットのWET/DRY/WETの設定に2台のユニットを組み込んだ先駆者です。EVHは1台のヘッド・アンプからのドライ音を中央のキャビネットから出力し、左右のキャビネットからはディレイがかかったウェット音だけを出力しました。これにより、アリーナを埋め尽くすような重厚で広がりのある音像が完成します。”Ain’t Talkin’ Bout Love.” のイントロでのディレイ・ペダルの使い方を聴いてみましょう。
EVHとBOSSのエンジニアは彼の有名なサウンドを忠実に再現するために、 SDE-3000EVH Dual Digital Delayを開発しました。強力なプリセットと多彩なアウトプットのおかげで、このペダルはEVHの3キャビネットを使用したWET/DRY/WETリグの再現を可能しています。
「EVHとBOSSのエンジニアは彼の有名なサウンドを忠実に再現するために、SDE-3000EVH Dual Digital Delayを開発しました」
Eddie Van Halenのサウンドを実演する
- ディレイの種類: アナログまたはデジタル
- RE-2 Space Echo:クラシックなテープ・マシンのワウとフラッターを生成
- DM-2W:アナログBBDディレイ
- SDE-3000 EVH:Eddie Van Halenのサウンドを忠実に再現
John Mayer
John Mayerが様々なディレイ・ペダルを使用していることは広く知られています。”Heartbreak Warfare”を聴くと、Mayerがディレイを単なるエフェクトとしてではなく、楽器として使っているのが分かります。彼はディレイをトレモロアームと一体化して使い、誇張されたワーブル・サウンドを作り出しています。ワーミーのワープ音とRE-202 Space Echoのワウとフラッターを組み合わせれば、John Mayerのような音色をすぐに鳴らすことができます。
John Mayerの音色の興味深い点は、アナログとデジタルの両方のディレイを活用しているところです。これは完全に理にかなっています。Mayerはヴィンテージ・スタイルの機材を好んでいますが、常に信頼性を求めているため、BOSSのCE-2Wペダルを使用しています。しかし、アルバム”SOB Rock”では80年代風のデジタル・ディレイの音色を追求しました。”Last Train Home”を聴けば、その雰囲気を体験することができます。
「Mayerスラップバック・ディレイを好む傾向があり、オーバードライブしたリバーブのような音色です」
Mayerスラップバック・ディレイを好む傾向があり、オーバードライブしたリバーブのような音色です。このサウンドは”Slow Dancing In A Burning Room”の特徴的なスラップに使用されています。
John Mayerのサウンドを実演する
- ディレイの種類: アナログまたはデジタル
- RE-2 Space Echo:クラシックなテープ・マシーンのフラッターとワウを生成
- DD-200: 精度の高いディレイ・サウンド
John Frusciante
John Fruscianteの最も偉大なフリークアウトのひとつとして評価されている、アイルランドのスレーン城で演奏された”Don’t Forget Me ”では、彼の天才的なギターが披露されました。CE-1コーラス・ユニットを所有しており、大のBOSSユーザーであるFruscianteのディレイ・サウンドは、デジタルが主役です。3分57秒から始まるFruscianteの素晴らしいアウトロ・ソロでは、ディレイを駆使して隙間を埋めながらサウンドスケープを作り出しています。
このサウンドを実現するには、ディレイタイムを50~100ミリ秒の間で短く設定し、Mixを元の信号よりも高くしてディレイを2~3回繰り返します。こうすることで、ディレイが再生する次の音は元の信号よりも大きくなります。
このソロでは明瞭なデジタル・サウンドが際立っており、音が劣化したり質が変わったりすることはありません。その代わり、2-3回繰り返したところで止まってしまいます。しかし、クリック音(Fruscianteが弦をスタッカートでピッキングする音)は、デジタル・エフェクターの信頼性により、どのライブでも同じ音で奏でられています。
John Fruscianteのサウンドを実演する
- Delay Type: デジタル
- DD-3T
- DD-200
「大のBOSSユーザーであるFruscianteのディレイ・サウンドは、デジタルが主役です」
The Edge
ディレイ・ペダルを象徴する人気アーティストとして、U2のThe Edgeを欠かすことはできません。Gilmourと並んで、The Edgeはディレイを単なるエフェクトではなく、楽器として演奏に取り入れました。Gilmourがディレイによってソロをより長く際立たせることでリスナーを幽玄の世界へと誘う一方で、The Edgeは疾走する付点8拍子のリズムを生み出し、リスナーの感覚を駆り立てました。実際、彼は付点8拍子のテクニックで有名で、この映像ではBOSS DD-3を使って見事に実演しています。
The Edgeはディレイ・ペダルを8分音符の付点パターンに設定することが多いため、単音やシンプルなコードを弾くとディレイが空間を埋めていきます。これにより、複雑なリズム・パターンが生み出され、まるで跳ね返ってくるような音の渦が完成します。ディレイは彼が弾く音を効果的に倍増させ、彼の特徴であるギャロッピング・スタイルのディレイを作り出します。また、彼はパーム・ミュートとそれに続くディレイ・パターンを追加のパーカッションとして使うことで、その感触を際立たせています。
「The Edgeはディレイ・ペダルを8分音符の付点パターンに設定することが多いため、単音やシンプルなコードを弾くとディレイが空間を埋めていきます」
The Edgeは様々なディレイ・ペダルを使用しており、アルバム”The Joshua Tree”以降のSDE-3000、アナログ・ディレイ、ラックマウント・プロセッサーなどが挙げられます。DD-3T のようにシンプルなペダルで付点8分音符を設定すれば、The Edgeのサウンドに辿り着くことができます。あるいは、BOSS DD-200やDD-500に内蔵されている付点8分音符セッティングを使用してもいいでしょう。どちらも汎用性とクオリティの高さで知られている機材です。もしBoyの”A Day Without Me”のようなアナログ・サウンドを求めているなら、DM-2Wをおすすめします。
The Edgeのサウンドを実演する
- ディレイの種類: アナログまたはデジタル
- DD-3T:高速レクリエーション用
- DD-200、DD-500: 内蔵付点8分音符パターン用
- DM-2W:初期のU2アナログ・サウンド用
「ソロに深みとサスティーンを加えるために、David Gilmourはフィードバックとタイム設定を拡張したディレイを愛用しています」
David Gilmour
Pink Floydのレコーディングの大半で、GilmourはBinson Echorecのようなマルチヘッド・テープ・ディレイを使用しており、DD-200はそれを見事に再現しています。
ソロに深みとサスティーンを加えるために、Gilmourはフィードバックとタイム設定を拡張したディレイを愛用しています。これは彼の特徴であるスペイシーでエコーのかかったエフェクトを生み出し、巨大な屈曲を際立たせる役割を担っています。彼のディレイの使い方の中で見逃せないのが、”Meddle”に収録された”Echoes”です。Gilmourが22分00秒に登場し、ディレイを駆使した最高にクールなリフを披露しています。
リバーブやコーラス、ロータリー・スピーカー・シミュレーションのような歪みやモジュレーション・エフェクトとディレイを組み合わせて、豊かで没入感のある音色を作り出すことが多いGilmour。“Comfortably Numb”での彼のソロは、それを体験できる好例です。
Pink Floyd初期のサウンド
Pink Floyd初期のGilmourのディレイ・サウンドは、マルチヘッド・テープ・ディレイによるものでした。物理的な磁気テープを使用し、音質を徐々に劣化させることで、ワウとフラッターのタッチを持つ彼の特徴的なソロ・サウンドを作り出しています。David Gilmourのディレイ・サウンドを実現するには、Roland RE-201 Space EchoをエミュレートしたRE-202やRE-2が相応しいです。また汎用性が高く、Binson Echorecの象徴的なディレイが得られるDD-200も見逃せません。ディレイは約1600ミリ秒、リピートは3か4に設定しましょう。
David Gilmourのサウンドを実演する
- ディレイの種類: アナログまたはデジタル
- RE-2:アナログ・ウォーム用
- DD-200: 特定のBinson Echorecエミュレーション用
「Mayのスタイルと他のプレイヤーとの根本的な違いのひとつは、2つのデジタル・ディレイを異なるタイミングで使用していることでしょう」
Brian May
ディレイ・ペダルを駆使する著名なアーティストと言えば、QueenのBrian Mayです。”Sheer Heart Attack”に収録された”Brighton Rock”では、彼のスタイルが色濃く表現されています。3分19秒あたりから盛り上がりを見せ、Mayの特徴的なハーモニーが鳴り始めています。
Mayのスタイルと他のプレイヤーとの根本的な違いのひとつは、2つのデジタル・ディレイを異なるタイミングで使用していることでしょう。この設定により、複数のギターがステレオ・ディレイを使っているように感じられます。Eddie Van Halenのようにディレイ信号を2台のアンプに送り、中央のアンプにはドライ信号を送ることで、Mayならではの音色を維持しています。これはディレイが飽和しすぎることを防いでいます。
信号の分割
ディレイを800ms、それから1600msに設定するのがMayのやり方です。彼は複数のリピートを連動させ、数人のギタリストが同じリフを少しずつ遅れて弾いているような感覚を作り出しています。Brian Mayのサウンドを再現する最も効果的な方法は、信号を3つに分けることです。左のアンプに800msのディレイをセットし、中央のアンプにドライ信号を送り、右のアンプでディレイを1600msに設定します。
Brian Mayのサウンドを実演する
- ディレイの種類: アナログまたはデジタル
- DD-500: 異なる間隔で設定されたデュアル・デジタル・ディレイを活用
- DM-101:ダブリング、ディレイ、ワイド設定を活用
Slash
SlashはBOSS DD-3で彼のシグネチャー・ディレイ・サウンドを作り上げています。このディレイは”Welcome To The Jungle”のイントロをはじめ、アルバム”Appetite for Destruction”全体を通して重要な要素となっています。Slashの音を作るにはDD-3Tを使用し、800msに設定し、EFFECT LEVELを10時方向、FEEDBACKを10時方向(リピート4回前後)、LEVELを2時方向に設定します。
「SlashはBOSS DD-3で彼のシグネチャー・ディレイ・サウンドを作り上げています。このディレイは”Welcome To The Jungle”やアルバム”Appetite for Destruction”の重要な要素となっています」
現在、SlashはループにDD-500を2台、フロントエンドにDD-3を使用しています。こうして彼はクラシックな80年代のギターの音色を実現しているのです。ディレイはアンプのプリアンプに直接送信されるため、FXループを通したクリーンなディレイよりも、より硬質で、わずかにうなるような音色が特徴です。
Slashはオーバードライブとワウのエフェクトでも知られていますが、彼らの音を再現するペダルボードにはデジタル・ディレイが必須です。DD-3Tは、うずまくようなサウンドを再現するために完璧なツールです。
Slashのサウンドを実演する
- ディレイの種類: デジタル
- DD-500: クラシックな80年代Slash サウンド用
- DD-3T:800msに設定
Bloc Party
Bloc PartyのRussell LissackはBOSSディレイ・ペダルの熱心なユーザーとして知られています。彼の愛用ペダルは、廃盤のDD-6とDD-5ディレイ・ペダルを含む3台のデジタル・ディレイです。これはDD-3TやDD-8でも代用できます。Russell Lissackを象徴する音色のひとつに、リバース・ディレイを追加したループ/ホールド奏法があります。これは“Like Eating Glass”をはじめ、アルバム”Silent Alarm”全体に収録されています。彼のようなリバース・ディレイとホールド&ループ機能を手に入れるなら、DD-8がおすすめです。
Tame Impala
Tame ImpalaのKevin Parkerはドライブ、リバーブ、フェイズ、ディレイを駆使するプレイヤーです。Parkerのお気に入りは、ワウとフラッターで音質を劣化させるテープ・エコー・ディレイです。以下のビデオではDD-200、DD-20 Giga Delay、TE-2 Tera Echoなど、Parkerのペダルを取り上げています。Tame Impalaのディレイ・サウンドを再現するには、RE-202のワウとフラッターを大きくするか、TE-2 Tera EchoのTone設定を大きくするのが効果的です。
「Parkerのお気に入りは、ワウとフラッターで音質を劣化させるテープ・エコー・ディレイです」
The Verve
Roland Space Echoの有名なユーザーと言えばThe VerveのNick McCabeで、彼の音色の大部分はオリジナル機材を基本としています。The Verveのギタリストはディレイを使い、一目でそれとわかる瑞々しくアンビエントなサウンドスケープを作り出します。のスタイルは“Lucky Man” のようにストレートな曲をより興味深いものへと変えていきます。RV-6とRE-2の組み合わせは“Bitter Sweet Symphony”や“Slide Away”のように幽玄な音色を探求したい人におすすめです。
The Mars Volta
The Mars VoltaのOmar Rodríguez-Lópezは複数のディレイ・ペダルを使用して、その熱狂的な演奏スタイルに実験的なテクスチャーを加えています。DD-500の詳細なプログラム性により、プレイヤーは彼と同様のサウンド領域を探求することができます。その中でもAt The Drive-InやDeloused in the Comatoriumのような音色を求める場合は、DD-3Tがおすすめです。実際、Rodríguez-Lópezは元となったDD-3をリグで使用しています。“Eriatarka”を聞いて彼の素晴らしいディレイの使い方に触れてみましょう。
The Temper Trap
The Temper Trapのディレイを多用したギターサウンドは、“Sweet Disposition”のような楽曲の中でも象徴的な存在となっています。DD-8のデジタル・ディレイの設定ではミリ秒単位の精度で“Sweet Disposition”を再現できます。Lorenzo SillittoはDD-20 Giga Delayを使用して、あの象徴的なイントロの音色を生み出しました。
「DD-8のデジタル・ディレイの設定ではミリ秒単位の精度で“Sweet Disposition”を再現できます」
Radiohead
RadioheadのJonny GreenwoodとEd O’Brienはディレイによってそのキャリアを築いてきました。代表的な例としては “Street Spirit (Fade out)”や“Karma Police”の終盤が挙げられますが、Radioheadの音楽全体を通して、そのディレイの音色を聞くことができます。RE-2は、Radioheadの複雑なリズムやアンビエントなテクスチャーを模倣したい人にとって、素晴らしい出発点となります。