ソウェト生まれのBakithi Kumaloのように、一聴してそれと分かる個性的なサウンドを持つベーシストは多くはありません。Paul Simonの「You Can Call Me Al」におけるフレットレス・ベースの名演を聴けば、すぐにそのサウンドの虜になるでしょう。Simonがアルバム「Graceland」への参加を打診する前から、Kumaloは南アフリカで研鑽を積んでいました。高い技術、安定したグルーヴ感、そして楽曲に対する真摯な姿勢により、Cyndi Lauper、Herbie Hancock、Grover Washington Jr.、Mickey Hartなど多くのアーティストから尊敬されるセッション・アーティストとなったのです。Kumaloが2021年にリリースした「What You Hear Is What You See」は、このミュージシャンのアフリカからアメリカへの旅の記録となっています。彼が生まれ育った土地での想い出から、Simonとの長きに渡る友情、そして次世代のアーティストへのエールまで、様々なことを語ります。
ソウェトでの想い出
ニューヨークのスタジオからZoomのインタビューに応じたKumaloは、想い出の品々を前にして、自身の音楽人生を振り返りました。その後の運命を決定づけることになる楽器に最初に触れた時のことを話すとき、彼は顔をほころばせました。「叔父がサックス吹きで、その友人がコントラバスを持っていたんだ。彼は私にG、D、Aと弦を弾いてみせた。『来週までにこれらを覚えてくるんだ。とても大事なことだよ』とね」
この幼いベーシストは練習用の厚紙を自作するほど夢中になり、そしてついに演奏の機会が訪れます。「叔父が彼の結婚式に連れていってくれた時だった。結婚式でセッションが披露される予定だったんだけど、ベーシストが酔っ払ってしまっていた」彼は振り返ります。「そこで叔父が、『俺たちが教えたことを覚えてるか?曲は弾ける?』と言ってくれた」
「学校には行った事がないけれど、あらゆる街に出かけては、そこで見つけた音楽を学んでいたよ。南アフリカのあらゆる街にそれぞれの文化があり、それぞれの音楽があったんだ」
そこで叔父から小さなベースを手渡されたとき、「これが自分のやりたい事だと確信した」彼は、その瞬間からベーシストとしての道を歩み始めました。「学校には行った事がないけれど、あらゆる街に出かけては、そこで見つけた音楽を学んでいたよ。ヨハネスブルグ、ソウェト、南アフリカのあらゆる街にそれぞれの文化と、それぞれの音楽があったんだ」
ジャマイカから来たシンガー
「私はいつでも準備万端で、時間を守り、その人の音楽を尊重するようにしていた」というKumaloが10代の時には既に、その卓越した音楽センス、耳の良さ、そして熱心な仕事ぶりから、人気のセッション・ミュージシャンとなっていました。そんな彼に、運命的な出会いが訪れます。
「病気の母のために自動車整備士として働いていたとき、ボスが『Paul Simonがお前を探して電話してきたぞ』って言ってきたんだ。レゲエの『Mother and Child Reunion』を歌ってるジャマイカ出身のPaul Simonだ、と説明されたから、てっきり国のジャマイカだと思ったんだけど、ボスは『違う、ニューヨークにあるクイーンズのジャマイカだ』と」
Simonは、アカペラ・グループのLadysmith Black Mambazoをはじめとしたアフリカン・サウンドに没頭するうちに、Kumaloの演奏したトラックを何度も聴くようになっていました。「Paulがそのグルーヴを気に入って何度も聴いているうちに、『南アフリカに行って、実際に会ってみよう』と決めたそうだ」
Kumaloの巧みなシンコペーション、弾力的なスライド、ホルンのようなふくよかなサウンドが、こうした経緯で生まれたSimonのアルバム「Graceland」にインパクトを与えました。「私がフレットレスを弾いていた当時、他の誰も同じことはやっていなかった。とても難しかったけど、何か特別なものを感じて続けてみたんだ」このユニークなアプローチは、やがて数十年にわたるキャリアに成長しました。「『Graceland』は神の贈り物だったといつも感じているよ」と、感謝するようにKumaloは語っています。
長きに渡るSimonとの関係
37年もの間、Simonとともに演奏を続けたKumaloは、この偉大なシンガーソングライターの良き理解者でもあります。「彼との仕事は、偉大な教師と同じ教室にいるようなものだった。それに、お金を払ってくれる教師でもあったしね」と、Kumaloは微笑みます。「Paulは私に成長の機会を与えてくれたし、そこにプレッシャーを感じることもなかったよ」
「バスの中で、いつもメンバーと話して学んでいた」と話すように、好奇心旺盛なKumaloにとって、このスーパースターとのツアーは大きな糧となりました。愛する楽器を弾きながら世界を回る生活は、彼のアフリカでのつつましやかなキャリアのスタートからは想像がつかないほどの幸福でした。「当時、南アフリカの情勢は混乱していたからね。私は音楽によって良い人生を送りたいと願っていたけど、それを実現できたし、これだけ長く続けることもできた」
「Paulは私に成長の機会を与えてくれたし、そこにプレッシャーを感じることもなかったよ」
旅の記録
長年に渡るツアーとレコーディングの生活の後、2020年の感染症拡大によって多くのミュージシャンと同じようにKumaloも活動を制限されましたが、彼はそれを自らの活動を振り返る機会とし、南アフリカからアメリカへと渡った自身の人生を書き留める作品を作ることを決めたのです。「What You Hear Is What You See」には、Kumaloが築き上げた幅広い人脈から多くのプレイヤーが参加しています。「時が来たと感じたんだ。伝えたい物語があって、当時活動に苦労していたミュージシャン達とそれを作り上げることにした」
アルバムのカバーにも、このプロジェクトの個性が表れています。「このアルバムのカバーデザインを制作してくれる人を募集した。たくさんの人が絵を描いて送ってくれたなかで、ポルトガル人の応募者がいて、彼の絵が気に入ったんだ。その時は知らなかったけど、彼もベーシストだった」80年代のKumaloとSimonのように、ここにも運命的な邂逅があったのです。「彼にとっても、私にとっても素晴らしい出会いだった」
「What You Hear Is What You See」はウガンダ人ヴォーカリストのThisilaによる語りから始まり、最後の1曲まで流れるように続きます。「このアルバムをどのようなものにしたいかは、最初からはっきりとしていた」と、Kumaloは言います。「大衆受けはしないかもしれないが、私にとって大切なものを詰め込んだアルバムだ」
アルバム全体を通して、素晴らしい演奏だけでなく力強いメッセージ性も感じられます。「1曲目で、TshilaはShaka Zuluをはじめとするアフリカの偉大な指導者たちについて語っている。次のNelson Mandelaは誰になるだろう?」
「このアルバムをどのようなものにしたいかは、最初からはっきりとしていた。大衆受けはしないかもしれないが、私にとって大切なものを詰め込んだアルバムだ」
先生として
Kumaloにとって、すべての活動は未来へと繋がっています。「私が子供のころ音楽に夢中になった体験が、いま学校で子供たちと関わるきっかけになっている」と話す彼は、次世代に音楽への情熱を伝える事が、自身の使命だと言います。「彼らに楽器を好きになってほしいんだ。好きになれないようであれば、無理強いするべきではないけれど」
Kumaloが長年にわたり世界を巡って続けてきた演奏活動によって得た、次世代に伝えたい多くの教訓があります。「フレーズを歌で掴むことだよ」彼は自身の演奏哲学に関して、こう語ります。「複雑にすれば良いというものじゃない、節度を持たなければ。私は必要なだけ弾くようにしている。もし自分が演奏するフレーズを歌えないなら、それはフレーズを理解していないからうまく弾けないんだ」
「複雑にすれば良いというものじゃない、節度を持たなければ。私は必要なだけ弾くようにしている。もし自分が演奏するフレーズを歌えないなら、それはフレーズを理解していないからうまく弾けないんだ」
BOSSのベース・アンプ
アーティストがより良いサウンドを得るためには、機材の選択も大切です。Kumaloのようなレベルのプレイヤーにとっては、それぞれの機材が必要不可欠であり、どんなシチュエーションでも信頼できるものでなければなりません。BOSS KATANA Bassは彼のライブ用セットアップの新たな主力となっています。「手に入れてすぐ、Paulとのリハーサルに持って行ったんだ。ベースが聴こえづらいと彼が困るから、早めに入って音の調整をしていたんだけど、まったく不満は出なかった」
KATANA Bassは彼のライブ・パフォーマンスに欠かせないものになっています。「ステージで使う時はPAにラインで送るから、本体からあまり大きな音量は必要ないんだ」Kumaloは、これまでに使ったどのアンプよりもKATANA Bassを気に入っています。「これがベストだ。信じられないサウンドだよ」この言葉は、Kumaloの一見軽やかな、しかし巧みで熟達したプレイングにも当てはまるでしょう。彼がその輝かしい人生で見聞きしたことすべてが、彼の演奏とアルバムに表れているのです。