Serial GK Partners: TSC

Serial GK Partners: TSC

大阪の堺にある楽器店、TSC(トータル・サウンド・コミュニケーション)が製作しているカスタム・オーダーを中心としたオリジナル・ブランドPROiX。ローアクション&軽いタッチでの演奏が可能になる“Light Touch 激鳴りモディファイ”や最適化された弦振動など、その驚異的な“鳴り”がユーザーを魅了し続けている。創業者である木寺昭雄氏は、父親の影響で幼少の頃より電気工学に親しみ、20代の頃にTSCを設立。Geki-NARI-GTSなど代名詞的なモデルの製造に加え、“トータル・サウンド・コミュニケーション”の名の通り、MIDIギターやエフェクター・システムなど音の入り口から出口までをトータルにクリエイトしている。とりわけギター・シンセについては人生をかけて深い理解と愛情を注いでおり、ギター・シンセと出会ってから40年以上経った現在もプレイヤーとしてその可能性を模索し続けている。

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1977年、記念すべき世界初のギター・シンセRoland GR-500が発売。エポックメイキングな製品の登場により、先鋭的なプレイヤーたちによってギター表現は新たなステージへと突入することになる。その後、初のポリフォニック(和音)に対応、さらにシンセサイザー・ドライバーGK-2の登場によって自身のギターに搭載可能となるなど、正統な進化を遂げてきたギター・シンセ。2023年、新たに新方式のデジタル伝送を採用した「シリアルGK」の登場によりギターやベース本体に内蔵できるGK5-KITシリーズがラインナップ。音源コントロール用スイッチとボリューム、ノーマル・ギター出力機能の追加、7弦ギターへの対応など普遍性も追求。多様化する現代の音楽シーン、制作環境に対応するアイテムへとビルドアップしている。この記事では、GK5-KITシリーズを導入するギター/ベース・メーカーを取材。導入を決めた理由やGK5-KITシリーズが秘める可能性について話を伺った。

◾️ブランドが掲げるポリシー

私の祖父は商売をやっていて裕福だったんだそうなんですが、堺の大空襲で全部燃えてしまって、親父と親父の兄だけが生き残り親戚に引き取られました。親父はハワイアン・バンドをやっていた人で、高校時代はスチール・ギターを買いたいなんて言えないので、自分でピックアップのコイルを巻いてスチール・ギターを作ったり、真空管でラジオを作ったり、電気屋さんでラジオ修理をやっていたらしく、自然と私もモノ作りに興味を持つようになったんです。その後、京都工芸繊維大学を卒業して、小さな中古楽器店に社員として働きながらラックやギターなどいろいろなものを作るようになりました。極論を言うと、欲しいと思う楽器を誰も作ってくれなかったんです。自分のラック・システムは楽器店に置きっぱなしにして、小さいお店ですが、サンプルとして展示して試奏もできる状態にしていました。

TSC 木寺昭雄氏

TSCを立ち上げたのは約35年前で、ここに店を構えたのが約27年前です。造語ですけどTSCは“トータル・サウンド・コミュニケーション”の略で、ステージ音響やレコーディング・エンジニアなどもやっていたので、パッと見た人が単純にギター屋さんって想像されない名称です。最初はギター・ブランドをTSC、電気部門やエフェクターをPROiXにしよう思ったけれど、商標が取れたのですべてPROiXにしました。由来は特になくインスピレーションです。

現在のモデル・ラインナップはギターだとGeki-NARI-GTSで、ベースだとGeki-NARI-4/Geki-NARI-5/Geki-NARI-6。あとはアコギ・サウンドをアウトプットするAcSteelというモデルですね。弦やストラップも作っているので、作っていないものが逆に少ないです(笑)。

Geki-NARI-GTS GK-5

ギター・シンセとの出会いは20歳の頃。GR-500から始まって、結局、ギター・シンセと言っても誰にも聞けないわけですよ。本格的にというか、ずっと登場を待ちわびていたのはMIDIに対応したGR-700ですね。いざ導入するとGR-700はこんなに大きな足元なわけで、ラックもいっぱいあるからセッティングも大変。だから本体をラックの上に置いてコントローラーだけを引っ張り出して、全部ノックダウンするってことを早くから始めたんです。ここにその残党が残っていますけど、GR-33で1Uラック化にして販売。海外の人からも多くの注文がありました。

GR-500 & GS-500
GR-700

ARIAの顧問をやっていた時に、GRに対応した13ピン・ギターを制作し、Rolandさんとも打ち合わせをさせていただいて色々やらせてもらったんです。その頃、私はRolandさんのデモ・プレイヤーの契約もありましたので。あの時はGR-09(94年発売)が市販されていたけど、ARIAとしてはベース用モデルも作りましたのでベースでも動くようにしてほしいと。ノート・リミットというのがあって、グーンとアーム・ダウンをしても開放弦から5度下までしか検出されない設計になっていたわけです。それを外してほしいとお願いして、ベースも使えるようになりました。ただ、GR-09が発売されているから次の機種で実装しますと言ってくれて、96年に発売されたのがGR-30。GR-09とGR-30はハード的にほとんど変わっていないけど劇的に進化しました。なぜかと言うと、ピッキングした時は音がボンッて立ち上がりますよね。GR-09までは、一定の音量にならないとピッチ検出されないスレッショルドがあるわけです。そのタイムラグがレイテンシーとして感じられるんですが、GR-30からそのスレッショルドをゼロにしてくれたんです。入力があった瞬間にピッチ検出される。ラグがないから劇的に速くなったんですよね。これがずっと継承されています。

当時、ギター・シンセは雑誌にも取り上げられて盛り上がりました。GR-09の時は“GR元年”と言って、毎週東京に行ってデモ演奏をやっていましたし、デレック K.ショートというスタンリー・ジョーダンのベース版とも言えるプレイヤーも、ベースラインを弾きながらタッピングでメロディを弾いたり。

当時はまだお笑いもあまり東京に来ていなかったから、僕も大阪弁なので何をしゃべっても爆笑してくれる。そのぐらい盛り上がったんです。

それから、ピエゾが載っている13ピン・モデルなどいろいろ作りました。ずっとそんな人生です。ギター・シンセをちゃんと動くようにしたい。ところが、話題はレイテンシーとかトラッキングの話ばかりで、どう使えばもっとギター・シンセを魅力的に使えるかが提示されない。Rolandさんはすごく頑張っています。問題なのはギター。今回もそうですが、GK-5を付けてもあなたのギターはポンと弾いた時にチューナーの針が一発で止まりますか?。うちのLight Touchギターはブレずにバシッ!と止まります。それは何かというと、一般的な楽器はピッチ検出に必要な情報量が非常に少ないんです。そんな楽器でギター・シンセがまともに動くかといったら難しい。それは目で見てもわかります。特にベース。弦が振動しているところをじっと見ると、弦が揺れながら回っているんです。うちの楽器はそうはなりません。弦がずっと同じ振幅でキレイに揺れる。そのためにオリジナル弦も作っています。不要な定在波をすべて排除したのがPROiXなんです。

 「不要な定在波をすべて排除したのがPROiXです」

◾️GK5-KITの導入について

GK5-KITの発売を聞いて、正直最初に思ったのは“13ピンどうしよう”と(笑)。6パラとかになっているし、これがなくなると困るなって思ったのが正直な感想で。うちのお客さんもみんな何本も13ピンに変えてGKを載せているから、たくさんの人が“GK-5に変えないと駄目ですか”と言ってきましたが、とりあえず大変だからコンバーター(GKC-AD GK Converter)を使えと。ただ、これから初めてギター・シンセを載せる人は、導入がお手軽だからGK5-KITでやったらいいと思います。あと、やっぱりGM-800の音色が今までとは全然違う。私は大体4台のシンセ音源でひとつの音を作るんですけど、GM-800が入ってからラテンのピアノもリアルに弾けるんです。変な音が鳴りにくいし、GM-800のおかげでサウンドのクオリティがすごくアップしました。

うちのモデルは他にもいろいろなものを中に入れてますので、作業的にGK5-KITは回路が大きいから大変ですよ。結局、私のギターは13ピンがついていないとできないんです。でもお客さんが試奏に来られて、“そのままGM-800弾けるんですか?”って言われて“ごめんあかんねん”とは言えないから、13ピンとデジタル・シリアルGK方式の両方をつけてテストしようと。やっぱりみんな“13ピンはどうしたらいいですか?”って聞いてきますからね。そこはちょっと苦労しながらいろいろと進化させています。

ただ以前、ギター・シンセの動画を作った時に山口隆仁くんというギタリストが来てくれたんだけど、“うおー!”って唸るぐらい音色の違いに驚いていましたよ。それは使い手としてはすごく大きいことで、トラッキングが速いとか変な音が出にくいとかあるけど、どれだけそのサウンドが気持ちいいかは非常に大事ですからね。GM-800は小さいしギターの音は混ぜられないけど、逆にそれでええやんと思います。その方が初心者の人にはわかりやすいですよね。

これはRolandさんに納めさせてもらったモデルだからたくさんスイッチがついてますけど、演奏をしている時に手が当たって「うわ、鳴らへんやん」ってなるほうが嫌なので、ミックスだけ欲しいとかボリュームだけ欲しいとか、お客さんの要望に合わせてレイアウトしています。

「どれだけそのサウンドが気持ちいいかは大事です」

◾️GK5-KITが示す新たな可能性

弦高が高い時点でGKはダメなんです。なぜかと言うと、GKのピックアップはハムバッカーになってるでしょ。ハムバッカーってU字磁石で短い間しか磁力線が飛んでいないんです。ここはとても大切で、1弦を弾いてるのに2弦の音が鳴るとまずいでしょ。ってことは磁力線は距離に反比例して、弦とピックアップの距離が倍になったら磁束密度は4分の1になるんです。感度が取れないから、いかに弦にペタペタにくっつけるかなんですよ。だから、弦高が高いギターでは感度が低くなってしまうので問題です。プラス、LightTouch(弦振動を最適化することで音程感が明瞭になり、太く抜ける音になると同時に驚異的なサステインを実現するPROiXのモディファイ)は軽く弾くんです。軽く弾いてちゃんと音が鳴るってことは音の頭の波形が潰れていない。でも、ハード・ヒッターがガッて弾いたら頭の波形が潰れてしまいますから。

お客さんにはずっと言ってきましたが、ギターで意のままにはなかなか弾けません。昔は広告文句で“ギターでシンセが思いのままに”ってあったけど無理無理。だから、パット・メセニーもピックを軽く持つんですよ。すると、ピックは弦に軽く当たりますよね。いろいろと悩んだ結果、それが一番良かったんでしょう。

ARIAの顧問をやっていた時にGRのセミナーがあったのですが、「これやったらダメだからね」とやってはいけないことを色々と教えました。でも、そうするとギター・シンセが売れるんです。ダメなことをゼロにするのが一番。音楽もそうです。みんなカッコいい音ばかりを増やそうとするけど、ダメなことがゼロになればすべてが良くなるんです。ちょっと前、見知らぬお客さんから「TSCでギターを買っていないので申し訳ないですが、GM-800のことで教えてもらえませんか?」と電話がかかってきて。

「これを読まれた人が『え?』ってハテナがつく瞬間があったらいいな」

どこに問い合わせても思うような回答が得られないという事で、すべて説明してあげたらすごく感謝されたことがありました。今回もそうです。この記事を見られて“こんなお店があるんだ”と思ってもらえたら。他とは違うたくさんの色々な情報があるので、これを読まれた人が「え?」ってハテナがつく瞬間があったらいいなと思いますね。ギター・シンセで困っている人はとりあえず触ってみてほしいし、興味を持たれた方はお電話でも問い合わせフォームでも何でもいいからご連絡ください。

(Writing & Photography Motomi Mizoguchi)

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