Space Echoのサウンドと、その使い方  

Space Echoのサウンドと、その使い方  

長い歴史を持つRoland Space Echo。その中でも伝説的なモデルであるRE-201のサウンドを生み出す要因を解説します。

1 min read
Start

スペース・エコーが偉大な存在であることを知るためには、まずRE-201のようなテープ式エコーがどのようなものであるかを理解しなければなりません。テープ・エコーは、一本の輪になったテープが録音ヘッドといくつかの再生ヘッドを通過することでエコー音を生み出しており、テープは消去ヘッドを経て再び記録ヘッドに戻ります。また、再生ヘッドからの出力の一部を入力に戻すことで、再生ヘッドの数を超えた無限のエコー回数を実現しています。

完璧な「不完全さ」

多くのミュージシャンが、RE-201こそが量産されたテープ・エコーの中で最も完成度の高いモデルであると認めるでしょう。その内部構造は真空管を使用した初期のモデルより信頼性に優れ、ノイズも抑えられています。その堅牢な設計だけでなく、優れた消去ヘッドを採用していることも特徴です。RE-201以前の多くのテープ・エコーは永久磁石の上にテープを走らせるだけの機構を使っていましたが、この方法ではテープに記録された信号を綺麗に消去することが出来なかったのです。

"テープ・エコーがなぜ音楽的なサウンドを奏でるのかを知るためには、その元となったアナログ・テープ・レコーダーに注目すると良いでしょう"

Engineer working on Space Echo, Photo Courtesy of Roland
Engineer working on Space Echo, Photo Courtesy of Roland

アナログ・テープの微細なニュアンス

テープ・エコーがなぜ音楽的なサウンドを奏でるのかを知るためには、その元となったアナログ・テープ・レコーダーに注目すると良いでしょう。現代においても愛好家の多いアナログ・テープのサウンドですが、技術的に分析すると、デジタル方式に比べて多くの欠点があります。例えば、テープの磁気特性により録音レベルを上げるにつれて音が圧縮され歪んでしまうこと、同じテープを繰り返し使用すると高音域が削られていくことなどが挙げられます。

その他、我々がワウ&フラッターと呼ぶ、テープ走行における構造上の不完全さから生じるピッチのわずかな変化も生まれます。ワウとはゴム素材で作られたローラーの形状不良などが関係する、低周波のゆっくりとした変調を指し、フラッターはその他の機構的な欠陥に由来する、より高周波の不規則な変調を指します。一般的にワウ&フラッターは古い機械であるほど顕著になり、テープのサウンドに影響を与えます。デジタルによるサウンドがクリーンでフラットな音と表現されることに対し、テープによるサウンドはしばしば豊かで温かみのある音と表現されます。

Space Echo Tape

リピート音の柔らかい減衰

RE-201のようなテープ・エコーはテープ・マシンの内部機構と電子回路を応用して開発されていますが、アナログ・テープが持つ上記のような特性が、ミュージシャンにとって温かく音楽的に聞こえるサウンドへと彩りを与えています。再生ヘッドからの出力の一部を入力に戻すことで繰り返される音は、少しずつ高域を失い、より歪み、アナログ・テープならではの劣化を蓄積していきます。その結果として、リピート音が遠くへ溶けていくように聞こえるのです。

"RE-201では、アナログ・テープが持つ特性が、ミュージシャンにとって温かく音楽的に聞こえるサウンドへと彩りを与えています"

ワウ&フラッター

アナログ・テープ・レコーダーは、音質の向上を目指して何十年にもわたって開発が続けられました。その中には内部構造や電子回路の改良も含まれており、技術者たちは新しいテープの形状や、Dolbyやdbxに代表されるノイズ・リダクション・システムを開発してきました。この過程において、テープ可動部から発生するピッチの変調を最小限にする試みもなされ、この現象を「ワウ&フラッター」と呼ぶようになったのです。

RE-202 Space Echo

テープ・サチュレーション

磁気テープは、録音レベルが高くなると入力に対して出力が徐々に非線形になることがよく知られています。これは磁気テープに塗布された磁性体が一定量の電流までしか保持できないために発生する磁気飽和によるものであり、波形のピークがつぶれることで倍音が加わり、音にわずかなコンプレッションを与えます。この飽和(サチュレーション)は、テープ・レコーダーでよく見られるノイズ低減のための録音・再生時のイコライジングによって、より複雑な効果を生み出します。

テープ・サチュレーションは、適切な量であれば音に温かみを与えることが出来るため、デジタル録音よりアナログ・テープの音を好む人が多い理由のひとつとなっています。一方でデジタル・オーディオ・システムはアナログ・テープのようにワウ&フラッターに悩まされることがなく、デジタル特有の現象である音質を劣化させるクロックジッターも、技術が進歩した現代の機器では無視できるレベルになっています。

"テープ・サチュレーションは、適切な量であれば音に温かみを与えることが出来るため、デジタル録音よりアナログ・テープの音を好む人が多い理由のひとつとなっています"

Tape Transport

テープ走行

精密に設計されたスタジオ用のテープ・マシンであればワウ&フラッターは聞き取れないほど小さいこともありますが、愛用されている多くのテープ・エコーは聞いてすぐに分かるピッチ変化が発生しています。それは設計上の問題や摩耗が原因なこともありますが、テープ・エコー独自の特殊な要因もあります。テープ・レコーダーと異なり、キャプスタンと対になってテープを挟み込んでいるゴム製のピンチローラーが、使わない時も接触したままになっていることが多いからです。

そのため、ピンチローラーのゴムの表面に様々なへこみやくぼみが出来てしまい、ローラーが360度回転する間のテープ速度にムラが生まれて変調をきたしてしまうのです。その他にも、駆動軸の軸受けの摩耗がワウを発生させることもありますし、テープ・ヘッドが汚れてくると、テープが通過する際の摩擦も影響してきます。

Space Echo Tape

特徴的なモジュレーション

オリジナルのRE-201は非常によくできた設計であり、ワウとフラッターの発生は控えめでした。それでも十分に聞き取れるピッチ・モジュレーションがサウンドに個性を与えています。ここにはプリアンプ回路による歪みと周波数特性の変化も影響しています。

そのほか、テープの経年変化によって酸化被膜が剥がれムラが出来ることがあり、これが音にバラツキを与えることがあります。同じテープが何度もヘッドを通過することでテープに摩耗も生じるうえ、テープのシワが独特の変調を加えることもあります。

RE-201 Space Echo, Photo by BD James
Photo by BD James (Public Domain)

"オリジナルのRE-201は非常によくできた設計であり、ワウ&フラッターは控えめでした。それでも十分なピッチ変化があり、サウンドに個性を与えています"

パーツの集合体としてのテープ・エコー

テープ・エコーの独特なサウンドは、1つの単純な要素から生まれているわけではありません。まず電子装置が与えるサウンドへの色付けから始まって、テープ走行における機構的な要素、テープそのものといった様々な要因があります。

そして、磁気メディアへの録音と再生の際に生じる影響や、使用者が行うパラメーターのコントロールによる相互作用も考慮しなければなりません。これらすべてを再現するのは非常に困難で複雑なプロセスですが、BOSSのエンジニアは高度な技術を駆使してRE-201の特徴をRE-202RE-2 で実現し、更に幅広い調節機能とステレオ入出力を搭載させています。

スペース・エコーに関わる用語集

ディレイ・タイム

テープ・エコーは入力された信号を録音ヘッドによって録音し、1つまたは複数からなる再生ヘッドを通過することでエコー音を生み出します。1周したテープは、消去ヘッドを経て再び録音ヘッドに到達します。つまり、ディレイ・タイムは、ヘッドの物理的な間隔とテープの速度に依存しています。

モーターの回転速度を調節することで、ディレイ・タイムを変えることができます。この回転速度の変更時に発生するピッチ変化を、特殊なエフェクトとして用いるユーザーもいます。RE-201は等間隔に配置された3つの再生ヘッドを内蔵し、これらのヘッドを使い分けることでリズミカルなディレイを生み出すことができます。多くのテープ・エコーはリール型ではなく、ループ状に巻かれたテープがヘッドを通過し続ける方式が主流であるため、テープが切れることはありませんが、その分摩耗は激しくなります。

デジタル・ディレイ

テープ・ディレイは製造コストが高く、より安価で利便性の高いデジタル・ディレイに取って代わられることになりましたが、今でもオリジナルのRE-201を愛用する人もいます。現代ではモデリング技術によってアナログならではの美しい特徴を再現したデジタル・ディレイも存在します。

2007年に発売されたBOSS RE-20 Space Echoは、コンパクトなペダル型のサイズでスペース・エコーの魅力を得られる、大きな一歩を踏み出したモデルです。そこからさらに高度なデジタル技術と洗練されたアルゴリズムによって、BOSSはRE-202/RE-2を開発しました。製作にあたっては状態の良いいくつかのRE-201を参考として使用しており、オリジナル機とのサウンドの違いはごく僅かとなっています。

ドライ・サウンド

エフェクトが掛かる前の原音を指します。

エコー・ボリューム

スウェル、エコー・ボリューム、ウェット/ドライ・ミックスなどと呼ばれるこのコントロールは、原音と繰り返し音のバランスを調節します。時計回りに回し切った状態では通常原音はゼロとなり、ディレイ音だけが聞こえるようになります。

イコライザー(EQ)  

イコライザーは単にトーン・コントロールと呼ばれることもあります。オリジナル機であるRE-201はエコー音にのみ効果があるベースとトレブルのイコライザーが搭載されており、サウンドを温かくしたり、不明瞭にしたり、通常より明るくしたりすることで、エコー音がドライ音の後ろに心地よく収まるように整えることができました。

RE-202も同様のイコライザーを搭載していますが、RE-2は1種類のトーンつまみを採用しています。低音をブーストしながら高音を下げるか、高音をブーストしながら低音を下げるかのどちらかとなっており、センター・ポジションではイコライザーはかかりません。

エクスプレッション・ペダル

エクスプレッション・ペダルは、形状はボリューム・ペダルに似ていますが、互換性のある機器に接続することで、テープ・エコーのディレイ・タイムやフィードバックといった1つないしそれ以上のパラメーターをリアルタイムでコントロール可能となります。制御するパラメーターは、使用者が対象機器に設定することが出来るようになっています。

フィルター効果のかかったディレイ・サウンド

初期のデジタル・ディレイは信号を遅延させてからインプットに信号を戻すことでディレイ音を生み出しており、入力信号と非常に近い音が生成されていました。テープ・エコーは当時の技術的な限界が、かえって音楽的なサウンドを生み出していました。

ここにはテープの周波数帯に対する感度の違いや録音プロセスにおける制限、ノイズ・リダクションの副作用などが関係しています。テープ・エコーで発生する繰り返し音は、少しずつ明瞭さを失ってより遠くから聞こえるようになりますが、これは渓谷などの自然空間でエコー音が消えていく様子に非常に似ています。Rolandのスペース・エコーはイコライザーを搭載しており、繰り返し音のキャラクターを幅広いレンジでコントロールすることができます。

プリアンプ

RE-201は入力された音声のレベルを録音に必要なレベルまでブーストするプリアンプ部を搭載しており、僅かな歪みとフラットではない周波数特性が、プリアンプで生成されるサウンドに特徴的なキャラクターを与えています。さらに入力レベルが高くなると、より歪みが目立つようになります。RE-202はこの挙動を再現していますが、必要に応じてこの機能をオフにすることも可能です。

ピッチ・モジュレーション

デジタル・ディレイは、特別な設計がされていない限りはピッチ変化を伴わないディレイを生成します。一方で、テープ・エコーはモーター、ローラー、キャプスタン、テープ・ガイド等の様々なパーツがテープの走行速度に僅かな影響を与えていることで、ワウやフラッターと呼ばれるわずかなピッチの揺れが現れます。

この機構的に発生するマイルドなビブラートが原音と重なることで、僅かにコーラスのような効果が得られ、サウンド全体の奥深さが増していきます。RE-202/RE-2は、オリジナル機であるRE-201のこの特徴を再現した上で、ワウやフラッターの強弱を調節することが出来るようになっています。

スラップバック

スラップバック・ディレイとは、100msより短い、原音のすぐ後に続くディレイを活用したエフェクトです。ロカビリー・サウンドで多用され、Elvis Presleyの初期の音源にそのバリエーションが登場します。この手法を用いたディレイはボーカルとギターの両方でよく使用されます。

スプリング・リバーブ

リバーブは、ディレイとは大きく異なるエフェクトです。反射音によって原音のすぐ後に生成され、密度を持って徐々に減衰していきます。大聖堂のような硬い壁のある大きな建物で、誰もが経験したことがあるでしょう。

このエフェクトを手軽に再現する最も初期の方法が、スプリング・リバーブです。これは、1つまたは複数のコイル・スプリングを低い張力で保持し、一方の端に送信トランスデューサー(電気信号を振動に、またはその逆に変換する素子)を、もう一方に受信トランスデューサーを配置したものです。送信トランスデューサーが音声信号をスプリングに送ることによってスプリングが振動します。

これが受信側のトランスデューサーに到達すると、一部のエネルギーが跳ね返ってスプリングの往復を繰り返します。これによってハンドクラップのような短い音が1~2秒ものあいだ保持されるのです。受信機からの信号が増幅してドライ音に足されることで、自然な残響を再現することができます。スプリング・リバーブはどうしても金属的なキャラクターをサウンドに加えてしまいますが、初期のギター・アンプにはスプリング・リバーブが搭載されていたため、当時の人にとっては馴染みのあるサウンドでした。RE-201は、テープ・エコーに加えてスプリング・リバーブも搭載しています。

リピート・エコー

リピート・エコーを生み出すには、1つまたは複数の再生ヘッドから信号の一部を取り出して入力に送り返します。これは通常フィードバックやサステインと呼ばれており、RE-201の場合はINTENSITYというノブを使用してコントロールします。入力に戻される信号の強さによって聞き取れるエコーの繰り返し回数が決定されます。もしこのノブを一定以上まで上げると、無限に繰り返される音が積み重なってノイズの壁となる、発振と呼ばれる現象が発生します。フィードバック量を調節することで発振する寸前のサウンドを用いることは、ダブの古典的なテクニックです。

タップ・テンポ

アナログ・テープ・エコーの場合、ディレイ・タイムを手動でコントロールする必要がありました。RE-202のようなデジタル・ディレイにおいては、フットスイッチを曲のテンポに合わせて押すことで、最後にスイッチを押した2回の間の時間によって、ディレイ・タイムが決まります。これによって、曲のテンポに合わせた演奏が可能となります。

テープ・ヘッド

テープ・マシンは、信号の録音、再生、消去のために特別に設計された磁気ヘッドを使用しています。磁気ヘッドは小さなコイルを巻いた鉄製リングによって狭い磁界を発生させており、録音ヘッドはテープが通過する際に磁気を帯びさせ、再生ヘッドはテープ状の磁界を感知して電流に変換します。消去ヘッドは人間の可聴域を遥かに超える非常に高い周波数の信号を与えることで、テープに記録されている音声信号を消去します。

テープ・ループ

テープ・エコーでは、テープの両端をつなぎ合わせた1本のテープがループを形成しています。非常に短いテープ・ループがいくつかのガイドの周囲を通過するだけの製品もありますが、RE-201では非常に長いループを用いて、専用の収納箱に巻き取られるように設計していました。これにはテープ寿命が延びるというメリットがあります。

テープ・サチュレーション

アナログ・テープへの記録は、磁性体を塗布したテープの表面に、録音ヘッドによって磁気を帯びさせることで行われます。しかし、テープに蓄えられる磁気の量には限界があるため、大音量で録音すると波形のピークが潰れて歪んでしまいます。これをサチュレーションと呼び、過剰でなければ音に複雑さと温かみを与えることが出来ます。RE-201のようなテープ・エコーは入力信号のレベルを調節することができたため、入力ゲインを高く設定することで、意図的に飽和状態に追い込み、歪ませることができました。

ツイスト

RE-202/RE-2に搭載されているエフェクトで、フットスイッチを押している間だけ作用します。フィードバックのレベルを上げることで、無限に続く幻想的なサウンドを生み出します。

ワープ

RE-202に搭載されているエフェクトで、フットスイッチを押している間だけ作用します。フィードバックのレベルを上げると同時にディレイ・タイムを徐々に短くすることで、モーターを高速化して回転しているかのようにピッチを上昇させ、SF的な、暴走するようなサウンドの効果を生み出します。

Paul White

Sound on Soundで30年に亘って編集者を務めたのち、現在ではSOS Publicationsのエグゼティブ・エディターを担当。また、映画劇伴のようなチルアウト・ミュージックを制作するCydonia Collectiveのメンバーでもある。