あらゆるジャンルで活躍する汎用性と、パフォーマンスの幅を広げるクリエイティビティをあわせ持ったディレイを探しているなら、SDE-3 Dual Digital Delayに勝るものはないでしょう。2024年に新たに登場したこのコンパクト・ペダルは、古き良きラック型デジタル・ディレイSDE-3000を再現したサウンドを備えています。80年代のRoland製品が持つエッセンスを凝縮した魅力あふれるディレイ・トーンを、モノラルでもステレオでも手軽に得ることが可能です。この記事では、BOSS SDE-3のディレイ・エフェクトを最大限使いこなすためのテクニック10選を紹介していきます。
伝説のSDE
エフェクターが大好きな人であれば、Roland SDE-3000のサウンドについて聞いたことがあるかもしれません。1983年にリリースされたSDE-3000は、Eddie Van HalenやSteve Howe、Steve Vaiなど、数多くの伝説的なギタリストに選ばれたデジタル・ディレイです。この名だたるギタリスト達が、革新的な音色で音楽史を大きく変える手助けをした機材と言えるでしょう。40年以上が経った今もなお、世界中のレコーディング・スタジオで新しい歴史を作り続けています。ロンドンのMetropolisやAIR、ロサンゼルスのCapitolからEastWetまで、トップ・レベルのスタジオで著名なビンテージ機材と並んで活躍しているところを見られるはずです。
2023年にリリースされたSDE-3000DとSDE-3000EVH Dual Digital Delayに続き、2024年に登場したSDE-3 Dual Digital DelayがSDE-3000の伝統的サウンドをペダルボードにもたらします。デジタルでありながら温かみのある唯一無二のサウンド・キャラクターや、心地の良いモジュレーション、スムーズなローパス・フィルターを再現。さらに、内部で2つのディレイを並列で配列することで、SDE-3000の可能性を飛躍的に高めています。ユニークなOFFSETノブを用いて2つのディレイ・タイムを操り、インスピレーション溢れるディレイを探求しましょう。
パラレル・ディレイとは?
2つのディレイを使用することで、他では得られない複雑かつ立体感なサウンドを作り出すことができます。2つの接続方法には、一般的に並列(パラレル)と直列(シリーズ)があります。直列接続では、2つのディレイのうち一方のアウトプットから、もう一方のインプットへと信号が送られます。対して並列接続では楽器の信号を2つに分けることで、ディレイのインプットへ送られる信号をそれぞれ独立させています。直列接続ではエフェクトが順番にかかっていくのに対し、並列のエフェクトはそれぞれ独立して横並びでかかる、と考えると分かりやすいかもしれません。
ここからが面白いところです。例えば、一方のディレイ・タイムを500msに、もう一方を520mcにするとどのようなサウンドになるでしょう?1つのディレイを4分音符の感覚で繰り返し、もう一方を8分音符で繰り返したら?あるいは付点8分音符でもかまいません。SDE-3は1台でそのすべてを可能にします。さらに、そこに複雑な設定は必要ありません。シンプルなディレイ・ペダルのようにディレイ・タイムをノブ、タップ・テンポおよびMIDIクロックで設定し、OFFSETノブで2つのディレイの差を調節するだけです。
「SDE-3のOFFSETノブは、多次元的なパラレル・ディレイへの入り口です。」
SDE-3のOFFSETノブは、多次元的なパラレル・ディレイへの入り口です。最大100msの差を2つのディレイ・タイムに作り出すことができます。ダブリング・エフェクトや奥行きのあるディレイ、フィードバックによって進化するシンコペーションまで、多彩な表現が可能です。OFFSETノブは反時計回りに回し切ることで2つ目のディレイがオフになり、SDE-3を通常のディレイ・ペダルとして使用することができます。
奥行きのあるディメンション・ディレイ
Roland SDE-3000の本質的なディレイ・サウンドだけでなく、SDE-3はアイコニックなモジュレーションやローパス・フィルターも再現。光沢感ある黒塗装、鮮やかな青色のシルクなど、クラシックな外観も継承しています。きらめくようなわずかな揺らぎから、渦を巻くような激しいうねりまで、オリジナル同様のDEPTHノブとRATEノブで作り出すことが可能です。また、ローパス・フィルターはHI CUTノブでコントロールできます。時計回りに回すことで、ディレイ音のみの高域を徐々にカット。温かさを加えたり、顕著に暗くしてLo-Fiな印象を強めたりすることが可能です。
BOSS SDEシリーズのラインナップではもっとも小さな製品ですが、高い機能性を凝縮することで大きな可能性を秘めています。2つのディレイを駆使して得られる魔法のサウンドに終わりはないでしょう。しかし実は、SDE-3を使いこなすとトレモロやブースター、コーラス・ペダルのようなサウンドも得られるのです。下記で紹介する10通りのユニークな使用方法を読み、BOSS SDE-3 Dual Digital Delayの持つインスピレーションを最大まで発揮しましょう。
「BOSS SDEシリーズのラインナップではもっとも小さな製品ですが、高い機能性を凝縮することで大きな可能性を秘めています。」
THE SDE-3 MASTERCLASS
1. モノ、それともステレオ?
SDE-3の接続方法は3種類あります。モノ・イン/モノ・アウト、モノ・イン/ステレオ・アウト、そして、ステレオ・イン/ステレオ・アウトです。どの接続方法においても、2基の並列に配置されたデジタル・ディレイがサウンドを華やかに彩ります。ステレオで使用した際には、並列のシグナル・パスを維持したままOUTPUT AとOUTPUT Bから個別にディレイ・サウンドを出力し、より広がりのある音像が得られます。モノで使用した際には、2基のディレイ・サウンドがミックスされて、奥行きのあるサウンドがOUTPUT Aから出力します。INPUT AとINPUT Bの両方を使用する場合は、入力から出力まで独立したシグナル・パスを形成するので、SDE-3の前段に配置したステレオ・エフェクトの効果を維持できます。
出力モードをスタンダードに設定した場合、ドライ音とウェット音は常にミックスされて両方のアウトプットから出力されます。取扱説明書の設定方法に従うことで、ドライ音とウェット音をOUTPUT AとOUTPUT Bから個別に出力することも可能です。特にウェット/ドライの出力先を分けて音場を築き上げたい場合に効果的です。また、ダイレクト・ミュートの設定もでき、こちらはアンプのFXループや、AUX出力、ミキシングなどでの使用に重宝します。
「SDE-3の接続方法は3種類 – モノ・イン/モノ・アウト、モノ・イン/ステレオ・アウト、そして、ステレオ・イン/ステレオ・アウト」
2.8分音符と付点8分音符
もし、ギター・サウンドにリズミカルな動きをつけたい場合は、OFFSETノブを12時以降にセットして、8分音符や付点8分音符の設定を試してみてください。8分音符のディレイは一定周期のパルスのような動き、付点8分音符のディレイはよりシンコペーションされたリズムを生み出します。少しテクニックは入りますが、どちらもBPMに完璧に同期するメトロノームのようなエコーを作り出し、リフを書く際の創造の源泉にもなります。The Edgeの使い方を参考にしてみましょう。
OUTPUT AとBの両方を使用したステレオ出力した際に、その効果は最大化されます。OFFSETノブを8分音符もしくは付点8分音符のどちらに設定した場合でも、OUTPUT Aから出力されるのは、4分音符間隔のディレイです。そして、OUTPUT Bからは、OUTPUT Aの間隔に対して半分(8分音符に設定時)もしくは3分の4(付点8分音符に設定時)の間隔のディレイ・サウンドが出力されます。
「OUTPUT Bからは、OUTPUT Aの間隔に対して半分(8分音符に設定時)もしくは3分の4(付点8分音符に設定時)の間隔のディレイ・サウンドが出力されます。」
3. リアルタイム・コントロールとHOLD
LEVEL(ミックス)、FEEDBACK(リピート回数)、そしてTIME(間隔)の3つのパラメーターで、ディレイの基本ルールを設定します。LEVELノブを時計回りに回すと、リピート音の音量が上がっていきます。FEEDBACKノブを時計回りに回すと、リピートされる回数が増えていきます。TIMEノブは、0から800msの間で、リピート音が再生される間隔を設定できます。(INPUT AとOUTPUT Bを使用して、モノ・イン/モノ・アウトした場合には、TIMEが0から1,600msまで、設定可能になります。)この3つのパラメーターは、直接ノブを回したり、エクスプレッション・ペダルを接続することで、リアルタイムに操作することができ、渦を巻くようなサウンド・スケープや、幻想的な残響、繊細なフェード効果を生み出せます。エクスプレッション・ペダルで操作するパラメーターの範囲も任意に設定できるので、取扱説明書を参考に、ぜひトライしてみてください。
「LEVEL(ミックス)、FEEDBACK(リピート回数)、そしてTIME(間隔)の3つの基本パラメーター」
4. キャリーオーバーとディレイ・フェード
リア・パネルにあるCARRYOVERスイッチは、SDE-3をOFFにした際のディレイ音のふるまいをどのようにするかを設定できます。CARRYOVERがONの場合は、SDE-3をONからOFF(=バイパス)にした際に、FEEDBACKに応じたリピートが継続します。曲中でサウンドが切り替わる時でも、ディレイが自然に減衰していき、スムーズに展開できます。一方、CARRYOVERがOFFの場合は、SDE-3がバイパスに切り替わった瞬間に、ディレイ音も切れます。残響音を突然遮断すると、印象的な静寂を生み出せます。激しいフィードバックのうねり後や、シーンをガラっと変える時、鮮明な曲の終わりを演出する時に、スパッと音を切ることは非常に効果的です。
CARRYOVERをOFFにし、エクスプレッション・ペダルでディレイのフェード・アウトすることで、両方の長所を得ることができます。このためには、エクスプレッション・ペダルのコントロール範囲を、つま先の位置は好みのLEVEL、かかとの位置をLEVELゼロにする必要があります。この方法を使用することで、両手は自由に演奏しながら、ディレイをフェード・インしたり、ウェット/ドライのミックスをその場で調節したりすることができます。
「両手は自由に演奏しながら、ディレイをフェード・インしたり、ウェット/ドライのミックスをその場で調節したりすることができます。」
5. トレモロとブースターとしての裏技
リアルタイムにコントロールができるトレモロ・ペダルとして、SDE-3 Dual Digital Delayを使いこなすこともできます。エクスプレッションペダルを使用してLEVELの深さと比率を増減できるため、標準的な LFO ベースのユニットでは不可能なフリースタイルのトレモロ・エフェクトを作成できます。これを行うには、エクスプレッション ペダルのLEVEL設定を、かかとの位置で最小、つま先の位置で最大にしてください。完了したら、すべてのノブを反時計回りに完全に回します。
この方法は、トレモロを使用するギタリストを悩ませる音量低下が信号に発生することがなくなります。実際、SDE-3 は信号の音量を増やすだけなので、可変のフット・コントロールのクリーン・ブースターとして使用できます。あるいは、任意の位置でエクスプレッション ・ペダルを固定し、SDE-3 のペダル・スイッチで瞬時にオン/オフ、ブーストを行うこともできます。モジュレーションとディレイの設定を色々と試して、ユニークなトレモロトーンを見つけてください。 OFFSETノブを オフ (反時計回りに完全に回す) に設定すると、出力音量が大幅に増加することに注意してください。
「モジュレーションとディレイの設定を色々と試して、ユニークなトレモロトーンを見つけてください。」
6. 魅力的なコーラス
オリジナルのRoland SDE-3000の独特なモジュレーションは、三角波のLFOによって生成されており、その特徴的な揺らぎはSDE-3にも継承されています。FEEDBACKとTIMEのノブを下げてディレイのリピートを抑えてモジュレーションを強調することで、コーラス・ペダルとしても活用できます。SDE-3はコーラスの操作に不可欠なDEPTHやRATEのコントロールに加えて、様々なパラメータをコントロールすることができます。
LEVELやTIME、ユニークなOFFSETの調整に加え、モノやステレオ接続を試すことで様々なコーラス・サウンドを作り出すことができます。まず初めに、下の図のようなコーラス設定を試してみましょう。LEVEL 1時、DEPTH 1時、FEEDBACK 7時(最小)、RATE 3時、TIME 8時、HI CUT 7時(最小)、OFFSET 3時の設定です。Kurt Cobainの様なスタイルのコーラスで、”Come as You Are”の様なリフを弾いてみても良いでしょう。
「SDE-3はDEPTHやRATEといったコーラスの基本設定以上のコントロールが可能」
7. パラレル・ディレイ x パラレル・ループ
SDE-3をアンプのエフェクト・ループに接続すれば、よりクリーンではっきりとした効果を得ることができます。BOSS NextoneやKATANA GEN 3 (KATANA 100 GEN 3以上)の様なアンプには、シリーズ・パラレルが選択可能なエフェクト・ループが搭載されています。シリーズでは全ての信号がエフェクトを通りますが、パラレルの場合は片方の信号はエフェクトを通り、もう片方の信号はエフェクトを通らずに信号処理されます。
Roland Jazz Chorusのエフェクト・ループはステレオ・リターンのオプションも使用可能で、SDE-3のOUTPUT A/Bを左右のスピーカーに振り分けることができます。JC-120、JC-40、JC-22のエフェクト・ループをパラレルの設定にして、SDE-3のアウトプット・モードをダイレクト・ミュートに設定します。するとドライ音は両方のスピーカーから、SDE-3のデュアル・ディレイ・サウンドはLとRのスピーカーから個別に鳴らすことができます。かの有名なウェット・ドライ・ウェット・サウンドを一台のコンボ・アンプで体験可能です。
「BOSS KATANA GEN 3シリーズ(KATANA-100以上)ではシリーズ・パラレルの切り替え可能なエフェクト・ループを搭載」
8. グルーヴィなグリッサンド
長めのディレイに、ゆっくりとしたワイドなピッチペンドを組み合わせることで、優美でドリーミーなサウンドを作り出すことができます。ディレイのリピート音のピッチが緩やかに揺らぎ、ダイレクト音と織りなす音の渦を想像してみてください。SDE-3は単なるデュアル・デジタル・ディレイの枠を超越した、サウンドに様々な彩りを与えるペダルです。
SDE-3のパワフルなモジュレーションを活かし、あなたを未開の音域に誘います。サイケデリックなサウンドの肝となるセッティングを紹介します。LEVEL ノブを1時半、DEPTHノブを5時(最大)、FEEDBACKノブを3時、 RATEノを12時、TIMEノブを3時半、HI CUTノブを 5時(最大)、OFFSETノブは8分音符の設定にしてみましょう。エクスプレッション・ペダルを接続し、TIMEをコントロールすることで、万華鏡のような彩りが加わります。設定はかかと側で3時半、つま先側で9時になるように調整してください。
「ピッチだけでなく規則や精神までも揺らす、未開の音域への旅立ち」
9. タップ・テンポとMIDIクロック
SDE-3のペダルを2秒ほど長押しするとタップ・テンポ・モードに切り替えることができます。または外部フットスイッチを接続し、モーメンタリーで使用すれば直ぐにタップ・テンポのコントロールが可能です。SDE-3のディレイ・タイムと外部機器のテンポ同期を図りたい場合は、外部機器のMIDI OUT端子をSDE-3のMIDI IN端子に接続するだけです。SDE-3がMIDIクロックを受け、タイムとタップ・テンポ機能とシンクロします。
「MIDIクロックを活用することで、電子楽器と合わせた演奏や、DAWで録音する際にも完璧な同期が可能」
10. アンプを2台使用したパンニング
SDE-3の基本となるステレオのSTANDARDモードでは、独立したディレイがOUTPUT A/Bそれぞれから出力されます。PANモードに切り替えることで、左右を行き来する独特なピンポン・エフェクトを得ることもできます(PANモードへの切り替えは取扱説明書を参照してください)。空間を満たすディレイ・サウンドを生み出すために、2台のアンプを使うことをお勧めします。SDE-3のOUTPUT AとOUTPUT Bをそれぞれ別のアンプに接続し、次のセッティングを試してみましょう。LEVELノブを2時、DEPTHノブを7時(最小)、FEEDBACKノブを9時、RATEノブを7時(最小)、TIMEノブを12時、HI CUTノブを7時(最小)、OFFSETノブは気分に合わせて調整してください。
2台のアンプを使ったパンニングを強調したい場合は、SDE-3の後に別のエフェクトを接続してみましょう。分厚いオルガンのようなサウンドを作りたい場合は、OC-5 Octaveを追加し、POLYモードを選択、DIRECT LEVELを最小にし、その他のノブは全て最大に設定してみましょう。ロータリー・サウンドを足したい場合は、BOSSの空間系ペダルやリバーブ、Space Echoを足しても良いですし、歪み系のペダルとの相性も抜群です。
「PANモードを使えば、左右を行き来する独特なピンポン・エフェクトを演出可能」
ボーナス・ティップス:擬似的なテープ・ディレイ
OFFSETノブの8分音符(2時)から付点8分音符(4時)まで直線的に時間が可変します。このシルク印刷のないエリアはユニークなディレイ・サウンドを探求するのに最適なエリアです。少し時間をとって、OFFSETノブの謎に満ちた中間ゾーンを探索してみましょう。デュアル・ディレイの効果的な使い方が見つかるかもしれません。TIMEとFEEDBACKを長めに設定するとリズミックなディレイが強調され、シャッフル感も加わります。TIMEとFEEDBACKを短くすると、50年台のクールなロックンロール・スラップバック・サウンドが得られます。
テープ・ディレイのようなサウンドを試したい場合、LEVELノブを12時、DEPTHノブを8時半、FEEDBACKノブを12時、RATEノブを3時、TIMEノブを12時、HI CUTノブを5時(最大)、OFFSETノブを3時に設定してみましょう。OFFSETも設定によってビンテージのテープ・エコー・ユニットのようなリズミックなサウンドが生まれます。テープの劣化による音の変化を足したい場合は、HI CUTノブを調整してよりダークなリピート音にすることもできます。DEPTHやRATEを調整すれば、テープ・ディレイのようなワウ・フラッターを再現することも可能です。
「テープ・ディレイ・サウンドの再現はHI CUT、DEPTH、RATEの調整がポイント」