モジュレーションのエフェクトを活用することは、ギターの音色を表現するユニークで創造的な方法です。オーバードライブやコンプレッサー、オクターブ・ペダルが機能的な役割を果たすのに対し、モジュレーションはより創造的にサウンドを演出します。モジュレーション・ペダルの元祖であるコーラスは最も重要なエフェクトのひとつと言っても過言ではありません。ここでは、ギターの音色をより魅力的にするユニークで創造性に溢れたコーラスの使い方について紹介します。
コーラスの歴史
ファズ・エフェクトが60年代のサウンドを定義づけたとすれば、コーラスは80年代を象徴します。そしてコーラスはジャンルを超えたエフェクトで、決して限定的な音色を示しているのではありません。効果的に使うことで、どんな音楽のジャンルにも応用することができます。PrinceからMetallica、The Cure、Nirvanaまで、コーラスは1975年以降の現代音楽の最前線で見られる独特なエフェクトです。
数十年に渡るポピュラー音楽で見られるコーラスの歴史と革命は、RolandとBOSSに結びついています。Rolandがギタリストのために初めてコーラスを導入したのは1975年、ギター・アンプ JC-120 Jazz Chorusでした。
「PrinceからMetallica、The Cure、Nirvanaまで、コーラスは1975年以降の現代音楽の最前線で見られる独特なエフェクトです」
それから1年も経たない1976年6月、キーボード奏者に向けたBOSSのエフェクター第1号機となるCE-1 Chorus Ensembleが発表されました。そして当時のギタリストはこのペダルに魅了されたのです。1979年には現代的なBOSSのコンパクト・ペダル・シャーシを採用し、改良されたCE-2 Chorusが登場します。従来のCE-1からインスピレーションを受け、ミッド・レンジを強調し、ギタリストのためにノブもシンプルに設計されています。
BOSSのコーラスは80年代を通して音楽を定義付ける要素となりました。様々なタイプのコーラス・エフェクトを開発し、BOSSは他のどのペダルよりも多くのバリエーションを発表しています。
コーラスの活用法
コーラスの本来のコンセプトは、2つの楽器が同時に同じフレーズを演奏する効果を模倣することでした。2人のミュージシャンがピッチやタイミングを完全に合わせて演奏することはできないため、合唱のような絶妙な効果が生まれ、音の奥行きやインパクトを高めてくれます。
2つのオーディオ信号を出力することで、コーラス・エフェクトはこの模倣を実現しています。1つは原音に忠実な信号、そして、もう1つは原音からわずかにピッチをずらし、ディレイさせた信号です。これにより、2つの楽器で演奏しているサウンドが表現されます。
「コーラスの本来の目的は、2つの楽器が同時に同じフレーズを演奏する効果を模倣することでした」
プレイヤーは、ほとんどのコーラス・ペダルで信号のデチューンやディレイの深さ、そして揺れ感のスピードを変えることができます。加えて、影響を受けた信号とクリーン信号のバランスも調節できます。最も極端なコーラス・エフェクトは、ビブラートやトレモロのような音です。一方、最も繊細なコーラスは固いスラップバック・ディレイのようにマイルドな厚みをもたらします。
セットアップに関する注意事項
モジュレーション・ペダルの大半は、エフェクト・チェーンの比較的後段に配置することが一般的です。コンプレッサー、オーバードライブ、ディストーション、オクターブ・エフェクトは、モジュレーション・ペダルの前に置きます。ディレイやリバーブは、その後に配置しましょう。
コーラス・ペダルはドライブ・トーンを強調し太くするため、オーバードライブの優れたパートナーとして知られています。しかし、コーラス・ペダルはドライブ・シグナルを受ける位置に設置しましょう。それとは対照的に、ディレイとリバーブは、残響がクリーンなまま変化しないように、後段に置くのが最適です。
5つのコーラス・ペダルの使用法
1. ソロに厚みを与える繊細なコーラス
注意深く使うことで、コーラスはその威力を発揮します。ギターの音色を繊細に引き立てるために、コーラスは素晴らしく重要な役割を果たします。Michel Angelo Batioは、リード・トーンにさりげなくコーラスを使うギタリストです。コーラスは彼の演奏を強化し、まるで彼の叫びを表しているかのようなオーバードライブのかかったギター音を生かしたまま、深みを加えています。
リード・ギターのパートに繊細なコーラスを加えるには、レート・コントロールを12時付近、デプス・コントロールを10時付近に設定します。そうすることで基本的なサウンドを強調することなく、優しく太い音色が完成します。
「思い切った使い方をしてもコーラスは素晴らしい音を奏でるので、ペダルを少し踏み込みましょう」
2. 揺れを強調したコーラス
思い切った使い方をしてもコーラスは素晴らしい音を奏でてくれます。コーラスの渦巻くようなデチューンの効果は、80年代の曲を再現するためだけのものではありません。Nirvanaの“Come As You Are”は、デプスとレートを高めに設定したコーラス・サウンドの素晴らしい例です。このオルタナティヴ・ロックの名曲では、Cobainのギターの高音域が太いサウンドと完璧にマッチし、印象的なトーンを生み出しています。
3. ワイルドで宇宙を想起させるコーラス
極端な設定をすることで、コーラス・ペダルは奇想天外なチューニングの音を鳴らします。デチューンされた音のさえずりがビブラートのような効果をもたらすことは、避けるべき設定のように思えるかもしれません。だからこそ、特徴的なリフを演奏する際には、より一層個性を際立たせることもできるのです。John Scofieldの“Just My Luck”では、コーラスを限界まで引き出しています。コーラスはチューニングが少し狂っているように聞こえることもありますが、注意深く使うことで貴重なツールになります。
「デチューンされた音を作り出すコーラスのさえずりは、ビブラートのような効果を生み出します。これは避けるべきセッティングのように思えるかもしれませんが、裏技にもなり得るでしょう」
4. ドリーミーなコーラス
夢のような別世界の音色を奏でるコーラスは、ピッキングされたギターのパートをより引き立ててくれます。この雰囲気は、アコースティック・ギターとの相性も抜群です。John PetrucciによるDream Theaterの“Pull Me Under”では、シンプルな進行を際立たせるワイド・コーラスが特徴的です。
クリーンな音のエレクトリック・ギターやアコースティックのエレクトリック・ギターでコーラスを使うと、ピッキングされた簡単な進行に幻想的な雰囲気が加わります。クリーンなギター音に使用するときは、レイトとデプスを12時方向以下に設定し、ペダルを丁寧に取り扱ってください。エフェクトのインパクトはかなり残りますが、デチューンの特性が強く出過ぎることはありません。
5. ベースとコーラス
コーラスがベース、特にフレットレスと相性抜群であることについて触れる必要があります。フレットレス・ベースにコーラスをかける音色は、80年代のポップスで大流行していました。GenesisからJaco Pastoriusまで、この組み合わせにはユニークで甘美な特徴があり、探求する価値があります。
ベースと一緒に使用することで、コーラス・エフェクトがシンプルで基本的なベースラインに深みを加えます。ギタリストと演奏するベーシストにとって、コーラスはギタリストがメロディやリードを演奏する部分を太くする効果があり、リズムに足りない部分をエフェクトが補足してくれます。もちろん、コーラスだけでも素晴らしい音を再現できます。Jaco Pastoriusの“Continuum”を聞けば、楽器とエフェクトが同時に使われるときに、いかに素晴らしい音を奏でることができるかを理解できるでしょう。
「ベース・ギターと一緒に使用することで、コーラス・エフェクトがシンプルで基本的なベースラインに深みを加えます」
時代を定義する変調
コーラスは、クリーン・ギター・サウンドを際立てたり、ドライブのかかった音色を強化する素晴らしいツールです。サウンドに厚みも持たせたり、強烈でスペーシーなビブラートにもなります。実際、コーラスは80年代のサウンドを定義づけたモジュレーション・ペダルと言えるでしょう。レトロな音色にとって欠かせないエフェクトであることはもちろん、現代の音をアップデートする可能性をも秘めています。オーバードライブやディレイと同じように、コーラスはギタリストのセットアップに必要不可欠なペダルです。