BOSS Engineer Takeshi Mitsuhashi holding the RT-2 Rotary Ensemble

BOSSエンジニアリング:RT-2 Rotary Ensemble

RT-2 プロジェクト・リーダーの三津橋 剛氏が、BOSSがいかにしてクラシックなロータリーの魂を捉え、それをこれまで以上に進化させたのかを語ります。

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BOSSは創業以来、モジュレーション・エフェクトの分野をリードし続けてきました。実際、BOSSが初めて発売したペダル「CE-1 Chorus Ensemble」は、世界初のコーラス・ペダルであり、新たな基準を打ち立てるとともに、コンパクト・エフェクターのひとつのジャンルを生み出しました。コーラス、フェイザー、トレモロ、フランジャー、ビブラートといったエフェクトは広く知られていますが、その中でもひときわ個性が際立つモジュレーションがあります。それが「ロータリー」です。

回転する歴史

ロータリー・サウンドはすべてのエレクトリック・ギター用エフェクトに先駆けて誕生しました。その起源は1930年代、Donald Leslieによるレスリー・スピーカーの発明にさかのぼります。当初はオルガン用として設計されたこの回転式スピーカーは、やがてギタリストたちの間でも人気を博し、1960年代以降のヒット・レコードでひときわ際立つサウンドとして知られるようになりました。

2005年、BOSSの評価の高いツイン・ペダル・シリーズとして登場したRT-20 Rotary Ensembleは、COSM(Composite Object Sound Modeling)技術を用いて、本格的なロータリー・エフェクトを実現しました。2019年に生産終了となったものの、その豊かなモジュレーション・トーンはいまなお高い人気を誇り、中古市場では貴重な逸品とされています。

2025年に登場したRT-2 Rotary Ensembleは、BOSS初のコンパクト・サイズのロータリー・ペダルです。DSPモデリング技術を結集した本機は、本物のLeslie 122 ロータリー・スピーカーが持つ捉えがたい個性を忠実に再現します。3つの多彩なモード、充実したコントロール機能、ステレオ入出力を備え、これまでにない没入感と表現力を持つロータリー・サウンドを提供します。

本記事では、RT-2のプロジェクト・リーダーである三津橋 剛氏への独占インタビューを通じて、その開発の裏側を紹介。開発秘話や、この画期的なロータリー・ペダルに込められたこだわりを語ってもらいました。

RT-2 Rotary Ensemble with Stratocaster electric guitar

「実際のリバーブと同様に、ロータリー・エフェクトはアナログ回路だけでは正確に再現できません。本物らしい表現には強力なDSPが必要です」

現実的な再現

ロータリー・モジュレーションのサウンドをどのように説明しますか?

多くの人にとって、ロータリー・フェーズ・モジュレーションのサウンドは馴染みがないかもしれません。その音は、Leslie 122 キャビネットのような機材に内蔵されたコンポーネントの物理的な回転から生まれます。トレブル・ホーンとベース・スピーカーに接続されたドラムが回転することでドップラー効果が生じ、音程に影響を与えるのです。ただし、このロータリー効果は単なるピッチ・シフターとは異なり、滑らかで繊細な揺らぎを生み出します。同時に、音の空間的な動きや振幅の変化も感じられます。

ロータリー・モジュレーションは、一般的なフェイザー、コーラス、ビブラート、トレモロとはまったく異なるものです。複数の要素が絡み合った独自の音であり、その起源はアナログ回路ではなく、機械装置の物理的な動作にあります。現実のリバーブと同様に、このサウンドはアナログ回路だけでは忠実に再現できません。本物らしい表現を可能にするには、高性能なDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)が不可欠です。私たちはそれを RT-2 で実現しました。

RT-2 Rotary Ensemble in studio

「RT-2はさまざまな音楽スタイルに対応しており、ギター以外の楽器にも使うことができます」

時代を超えるサウンド

RT-2 Rotary Ensembleはどんなギター・スタイルに合いますか?

ロータリー・エフェクトは、ブルースやクラシックロック、ハードロックのプレイヤーにはよく知られています。でも、RT-2はほぼあらゆる音楽ジャンルで使用できます。伝統的な使い方もできるし、もっと創造的に使ってオリジナルなトーンを生み出すことも可能です。

また、BOSSのMetal ZoneやHeavy Metalペダルのように特定のジャンルに特化しているわけではないので、幅広いスタイルに対応できます。そしてこれは、ギターだけに限った話ではありません。ギター以外の楽器でも使えます。特にキーボーディストは、RT-2の持つ可能性に強く惹かれるはずです。私たちは、若いギタリストたちにもBOSS RT-2を通してこの時代を超えたロータリー・サウンドをぜひ体験してもらいたいと思っています。

RT-2 Rotary Ensemble

「モードIは最も純粋で本質的なロータリー・サウンドです。Leslie 122スピーカーの音を忠実に再現しています」

モードとモディファイ

モードI、II、IIIの違いは何ですか?

モードIは最も純粋で本質的なロータリー・サウンドです。Leslie 122スピーカーの音を忠実に再現しています。モードIIとIIIはそのモディファイ版です。なぜモディファイ版を加えたのかというと、Leslie本来の音はウォームで素晴らしい音色ではあるものの、ややレンジが狭く、他のギター・エフェクトと組み合わせたときに、もっと選択肢が欲しいと考えたからです。そのため、モードIIとIIIは他のペダルと組み合わせた際に最適なパフォーマンスを発揮するよう設計されています。面白いことに、一部のプレイヤー(キーボーディストも含む)は、昔のデジタル・ロータリー・エフェクトのような極端なサウンドを好むこともあります。

モードIは、Leslie 122の温かくて有機的なサウンドをそのまま再現したもので、周波数レンジはモードII・IIIよりやや狭め。アルペジオやコード・ストローク、アンビエントなトーンに適しています。モードIIは、より広い周波数レンジとはっきりした回転感が特長です。モードIよりこちらを好むプレイヤーもいます。どちらが良いかは正解があるわけではなく、完全に好みの問題です。

モードIIIは、ミックス内での存在感を高め、明瞭さと輪郭のある音を提供します。また、モードIやIIよりもドライブの幅が広く、より高いゲインも可能です。Leslie 122を完璧に再現はしていますが、もっと歪ませたいミュージシャンのために高ゲインの選択肢も用意しました。

RT-2 Rotary Ensemble Mode switch

「RT-2とRT-20はまったく異なるアルゴリズムを採用しています。DSPエンジンを一新し、音質も大幅に向上しました」

パートナーと前任モデル

RT-2 Rotary Ensembleと相性のいいBOSSペダルを教えてください。

BOSSのさまざまなエフェクターと組み合わせて実験するのはとても面白いですし、RT-2 Rotary Ensembleはこのタイプとしては初のコンパクト・ペダルです。組み合わせ次第で非常に創造的な音作りができ、試すだけでも楽しいですよ。たとえば、SY-1 Synthesizerでオルガンの音色を出して、RT-2とSDE-3と組み合わせると、通常のギター・ピックアップだけで驚くほどリアルなオルガンの音が作れます。

2025年発売のRT-2は、2005年のRT-20を置き換える存在です。両者の根本的な違いは何ですか?

RT-2とRT-20は基本的にまったく異なるアルゴリズムを採用しています。DSPエンジンは刷新され、音質も格段に向上しています。RT-20は20年以上前に開発されたモデルなので、当時と比べて現在のDSP技術、CPU性能、モデリング手法は大幅に進化しています。現在では、DSPリソースを気にすることなく、より細かく繊細な挙動まで忠実に再現できるようになっています。

RT-2はコンパクト・ペダルですが、RT-20はツイン・ペダル・シリーズの大型モデルでした。それでもRT-2はコンパクトでありながら、RT-20に匹敵するほどの強力なコントロール性能を備えています。

BOSS RT-20 Rotary Ensemble
Available between 2005 and 2019, the RT-20 Rotary Ensemble is the precursor to 2025's RT-2 Rotary Ensemble.

「プロセスは非常に複雑でしたが、最終的に私たちは最高のロータリー・サウンドを作り上げました」

複雑なプロセス

RT-2 Rotary Ensembleの研究開発にはどんな経緯があったのでしょうか?

私たちは、実際のLeslie 122 スピーカーをもとに、より立体的なロータリー・サウンドの研究開発を始めました。エンジニアが多数のDSPアルゴリズムを作成しましたが、音を完璧に再現するのは非常に難しく、必要なDSPパワーも膨大でした。

しばらくは誰も解決策を見いだせず、エンジニアたちは徐々に他のプロジェクトへと移っていきました。しかし私は、改めてアルゴリズムや資料に目を通し始めたのです。

その後、より小型のDSP技術が登場し、今回のコンパクト・ペダル向けにロータリー・サウンドへ再び挑戦することが可能になりました。元祖Rotary Ensembleペダル、RT-20の本質的な要素を損なうことなく、より良いアルゴリズムを生み出すために大きな努力を重ねました。

プロセスは非常に複雑でしたが、最終的に私たちは最高のロータリー・サウンドを作り上げました。そのサウンドは本当に素晴らしく、演奏者からも非常に好評です。私たちはロータリー・エフェクトを愛用するプロのミュージシャンたちと何度も現場テストを行い、彼らからも高い評価をもらいました。

RT-2 Rotary Ensemble

「RT-20同様、RT-2のVirtual Rotorディスプレイは、ロータリー・エフェクトに連動して動く素晴らしい視覚的補助機能です」

バーチャルな視覚表現

Virtual Rotorディスプレイについて教えてください。

RT-20と同じく、RT-2のVirtual Rotorディスプレイは、ロータリー・エフェクトに合わせて動く優れた視覚補助機能です。赤いライトの回転はトレブル(ホーン)の回転速度を示し、青いライトの回転はベース(ドラム)の回転速度を示します。多くの人に好評な機能で、このディスプレイのおかげで演奏者はロータリー・エフェクトをよりわかりやすく視覚化できます。

RT-2 Rotary Ensembleの出力設定はどのようにできますか?

通常のステレオ出力に加えて、Output AとBを使い、それぞれウェット信号とドライ信号に分けて設定可能です。これにより他のペダルとの接続の柔軟性が高まります。また、ロータリー・エフェクト付きのアンプ(ウェット)と、エフェクトなしのアンプ(ドライ)を同時に接続することもできます。Output Bのドライ信号もDSP処理されているため、Output Aのウェット信号との位相ズレの問題が起こりません。テストの結果、この設定が断トツで最良の選択肢であることがわかりました。

BOSS RT-2 Rotary Ensemble

「私たちはローランド本社の無響室で、Leslie 122をモデリングしました」

ステレオで動くロータリーサウンド

RT-2 Rotary Ensembleをステレオで使うメリットは何ですか?

ほとんどのギタリストはモノラルで1台のアンプを使いますが、RT-2を使って2台のアンプでステレオ再生すると、はるかに立体的で三次元的なロータリー・サウンドが得られます。このステレオ設定は録音時にも効果的で、ステレオ・イメージがより明瞭になります。多くのプレイヤーはRT-2のステレオ入出力機能を楽しめるでしょう。特にリバーブやディレイなど他のステレオ・エフェクトと組み合わせるとさらに魅力的です。

RT-2の立体的なステレオ・サウンドを高めるために、私たちはローランド本社の無響室で高品位なフラット・レスポンス・マイクを2本使い、Leslie 122のサウンドをモデリングしました。さまざまな角度を試し、最もダイナミクスがよく捉えられる位置にマイクを設置しています。

この記事に登場する会社名や製品名は、それぞれの所有者の登録商標または商標です。

Rod Brakes

BOSSのブランド・コミュニケーションおよびコンテンツ企画担当。過去にはGuitar WorldやMusic Radar、Total Guitarを始めとする数々の音楽メディアでの執筆経験があり、アーティストや音楽業界、機材に関する幅広い知識を持つ。彼自身も生粋のミュージャンである。