エフェクター、カントリー・ミュージックを往く

エフェクター、カントリー・ミュージックを往く

カントリー・ミュージックは、他の音楽ジャンルとは少し異なるエフェクターの使い方をしています。カントリー・ミュージックにおけるサウンドの変遷を辿りながら、ペダルの使い方をご紹介します。

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エネルギッシュなサウンドで社交場を盛り上げてきた伝統的なカントリー・ギターは、輝くような光沢のあるクリーン・トーンが主流でした。かの有名なMaybelle CarterJimmie Rodgersの音色を想像してみましょう。それから、エレクトリック・サウンドのパイオニアたちのことも。ボブ・ウィルズ&ザ・テキサス・プレイボーイズ(Jimi Hendrixもお気に入りです)、Arthur Smith(1945年の「Guitar Boogie」が有名ですね)、そして偉大なるChet Atkins。初期のカントリー・ギタリストたちが、余計な音色を加えない“添加物の使用禁止”に従っていたことは明らかですが、カントリー・ミュージックはエレクトリック・サウンドを取り入れることに躊躇しませんでした。セッション・ミュージシャンたちの試行錯誤が、新たな道を切り開きました。今日のカントリーとロック・サウンドはあまり違いがないように感じますが、両者の変化に大きな役割を果たしたのは実はエフェクターなのです。

エフェクターの黎明期

誰もが知るように、初期のロックとブルース・ミュージックはギターの音色を引き立ててレコーディングすることに長けていたようです。控え目でありますが、彼らはディストーションやオーバードライブを使用していました。ジャッキー・ブレンストン・アンド・ヒズ・デルタ・キャッツが1951年に発表した楽曲「Rocket 88」は少しザラついたサウンドで、Howlin’ Wolfが1952年に発表した「How Many More Years」もその流れを汲んだサウンドです。その後、カントリー・ミュージックから色濃い影響を受けたミュージシャンたちは、その背中を追いかけるようになります。ロカビリー・バンドのジョニー・バーネット・アンド・ザ・ロックンロール・トリオの一員、Paul Burlisonは「Honey Hush」でオーバードライブを披露し、カントリー・ギタリストのLink Wrayは1958年の「Rumble」で攻撃的に歪ませたギター・サウンドを響かせました。

ファジーなストーリー

これら初期のエフェクト・サウンドは、偶発的な出来事が重なって生まれることが多々ありました。真空管の調子が悪かったり、外れていたり、コンボ・アンプのスピーカーに穴が開いていたり。1961年、Marty Robbin’sがリリースした「Don’t Worry」で電気回路の異常からファズ・サウンドが生まれた後、カントリー・ミュージックの状況はガラリと変わりました。ナッシュビルの伝説的なセッション・ミュージシャン、Grady Martinがこの曲で演奏したDanelectroによるソロ・パート(1分25秒頃)では、誤作動を起こしたミキサーによってアグレッシブなうねりが加えられています。このように、機材や電気回路の不具合はギター・サウンドの進化において極めて重大な影響をもたらしているのです。

“カントリーらしさ”を持ち続ける秘訣はエフェクターの使い方にあり

当初、Grady Martinはこのサウンドをあまり好んでいませんでしたが、1961年にはこのエフェクト・サウンドを多用した「The Fuzz」をリリース。同曲でエンジニアを務めたGlen Snoddyは、Martinのサウンドを手に入れたいミュージシャンから注目を集めることになります。

ナッシュビルのスタジオからブリティッシュの音楽シーンへ

ミキサーの故障で、Snoddyは同じサウンドを作れなくなってしまいます。しかし彼は鋭い洞察力を持っており、同じサウンドを生み出す機器を開発することができました。ゲルマニウム・トランジスタを使用したファズを作るため、SnoddyはエンジニアのRevis Virgil Hobbsとタッグを組みます。2人はその回路をギブソンに売却。1962年にMaestro Fuzz-Tone MODEL FZ-1Aとして販売されることになります。ローリング・ストーンズのKeith Richardsは、1965年のヒット曲「Satisfaction」で最も象徴的なリフにパワーとインパクトを与えるため、このFZ-1Aを使用。ナッシュビルのカントリー・ミュージック・メーカーから、イングランドの“ロックンロールの不良たち”へとそのファズ・サウンドは広がっていったのです。

Marty Robbins Poster, Photo by Bradford
Photo by Bradford Timeline (Creative Commons)

"Vince Gill、Brad Paisley、Rebecca Lovell(ラーキン・ポー)、Keith Urbanのようなスーパー・スターたちがエフェクターを愛用"

Keith Urban, Photo by Shawn Miller (Library of Congress)
Keith Urban, Photo by Shawn Miller (Creative Commons)
Rebecca Lovell of Larkin Poe, Photo by Stefan Brending
Rebecca Lovell of Larkin Poe, Photo by Stefan Brending (Creative Commons)

ギタリストとエフェクター

それでも、カントリー・ギタリストがエフェクターを導入するまでには少しだけ時間がかかります。しかし、カントリー・ミュージックのスタイルが進歩していくにつれて、エフェクターは凄まじい勢いでナッシュビルを席巻。Dann Huff、Reggie Young、Brent Masonといったプロのセッション・ギタリストたちは、ロック・ミュージシャンのようなエフェクト・ボードを構築します。ブースター、コンプレッサー、ディレイ、リバーブ、イコライザーなどのペダルを足元に並べ、さらにVince Gill、Brad Paisley、Rebecca Lovell(ラーキン・ポー)、Keith Urbanのようなスーパー・スターたちがエフェクターを愛用することで、歪み系、ディレイ、トレモロ、コンプレッサー、リバーブ、モデリング系に至るまで、幅広いエフェクターが使用されるようになります。

カントリー・ギターの魂

豊富なエフェクターを使っているのにも関わらず、カントリー・ギターはどのように“カントリーらしさ”を堅持しているのでしょう。その答えは、エフェクターの使い方にあります。もちろん、指の使い方やソウルも大切です。ロック、プログレ、フュージョン・ギタリストにはギター本来の音色を消そうとする人もいますが、カントリー・ミュージックのアプローチは対照的でより繊細です。エフェクターによる音質の変化を聴かせながらも、ギター本来のピュアな音色を響かせているのです。何より観客からのボーカリストへの視線を、ギター・サウンドによって奪うべきではありませんよね。

カントリーにおける重要なエフェクターは、ディレイ、オーバードライブ、コンプレッサーです。以下のプレイ動画で、オーストラリア出身の著名なフィンガー・ピッカー、Zane Banksがエフェクターを使ったテクニックを披露。エフェクターを“ちょっとカントリー風”に使う方法を紹介しています。

ディレイ

音の太さを出しつつ残響を付加するスラップバック・ディレイの起源は、1950年代まで遡ります。初期のカントリー、ロカビリー、ロックの名曲で聴くことができますが、Chet Atkins「Blue Gypsy」か、Elvisの「Mystery Train」でギターを担当した Scotty Mooreのプレイをチェックしてみましょう。前出のZane Banksは、現代的で芯のあるトーンを作るためにBOSSのDD-3T Digital Delayを常にオンにしています。そして、彼が“攻撃的な一打”と呼ぶパーカッシブな特性をサウンドにもたらしています。

歪み系

カントリーのギタリストほど、驚愕のパフォーマンスを繰り広げるプレイヤーは稀有でしょう。新雪のように澄んだ音色を奏でるFenderのTelecasterの指板を、火を噴くような運指が上下する姿を思い浮かべてください。このように別世界とすら思えるテクニックが存在する一方で、フィンガー・ピッキングにはさらなる力強いサウンドを求めるプレイヤーもいます。Zane BanksはBOSSのBD-2 Blues Driverを使って、うっすらとオーバードライブをかけたトーンはもちろん、ボリューム・ノブを上げることで猛々しくも硬質なサウンドまで生み出しています。

コンプレッサー

Telecasterのリア・ピックアップで速弾きをしても、観客にとっては満足できる演奏にはならない可能性があります。焼け付くようにきらびやかなトーンは、リスナーによっては少し騒々しく感じる人もいるでしょう。しかし、コンプレッサーは入力信号のダイナミック・レンジの幅を狭めてくれるため、ギターのトーンを力強く、そしてバランスの良いしっかりとしたサウンドにしてくれます。

この効果は、音量が大きすぎる部分を小さくする“ダウンワード・コンプレッション”によるものです。もちろん、小さな音には作用しませんが、アップワード・コンプレッションの場合は逆の効果が得られます。小さな音はブーストされ、大きな音はそのまま。どちらにせよ、均整の取れたトーンを手にすることができます。

Zane Banksは、BOSSのCS-3 Compression Sustainerをエンハンサーとして使用。ただ、演奏中はずっとオンにしているわけではなく、Brent MasonやAlbert Lee、Ray Flackeのようなトーンを引き出す場合に使っています。「Johnny Cashの曲を演奏する時はコンプレッサー・フリー。しかし、1980〜90年代のカントリーのような雰囲気の曲をプレイする時は、コンプレッション・サスティナーを使います」

"リバーブをたっぷりと効かせたトレモロは、まるで孤独な街へとトリップさせてくれます。" - Zane Banks

トレモロ

ロック、ブルース、カントリー、ジャズを演奏する人は、トレモロがモジュレーション・エフェクトであることを知っておくべきです。トレモロは音量の入力信号をリズミカルに変化させます。一方でビブラートは音程を変えます。上手く使えば、トレモロは刺激的なエフェクターになり得ます。Zane Banksは、BOSSの TR-2 Tremoloを控えめに使用。なぜなら、トレモロを使いすぎるとギター本来の音色が消滅してしまうと考えているからです。「しかし、適切なタイミングで使うととても効果的なんです。リバーブをたっぷりと効かせたトレモロは、まるで孤独な街へとトリップさせてくれます。聴いたことのないような哀愁が感じられますよ」

スーパー・オーバードライブ

現代のカントリー・ミュージックにおいては、先人が積み上げた歴史に敬意を払いつつも、時にはロックでなければならないこともあります。Keith Urbanのコンサートでは、クリーム時代のEric Clapton、Stevie Ray Vaughan、Eddie Van Halenが融合したような泣きのギターが響く時があります。クリーン・トーンのTelecasterではこうはいかないでしょう。オーバードライブやディストーションは、ド派手なショーにおいてなくてはならない存在なのです。Zane Banksは、GibsonのLes Paulで彼が言う“すごくブリティッシュっぽい音”を出す時に、BOSSのSD-1 Super OverDriveを使っています。図太い音、真空管のような自然な歪み、豊かなサスティン。開放感のあるリード・ギターを望むのであれば、SD-1は最適解と言えるエフェクターでしょう。

"クリエイティビティに溢れたプレイヤーは、常識や自分の限界を打ち破る道をエフェクターに見出すことでしょう。"

Brad Paisley, Photo by Amaya & Laurent

ギタリストにとって、エフェクターはインスピレーションがたっぷりと詰まった“オモチャ箱”です。フットスイッチを踏むことで得られる多様なサウンドは、新たなリフや作曲のアイデアへと通じるでしょう。膨大な選択肢は、どんなギタリストにも等しく用意されています。クリエイティビティに溢れたプレイヤーは、常識や自分の限界を打ち破る道をエフェクターに見出すことでしょう。それは、どのような演奏スタイルのプレイヤーにも言えることです。 カントリー・ギタリストにとっても、伝統に則ってプレイをするのか、新たな道の先駆者になりたいのか、その違いはほとんどないのです。栄光へと続く道はあなたの足下、エフェクターの中にあるのですから。

Michael Molenda

アメリカの人気雑誌Guitar Playerで過去最も長く編集長を務めた経歴を持ち、現在はGuardians of Guitarというウェブサイトを立ち上げ、ギター関連製品に関するコンテンツ制作を行なっている。また、Modern Drummerマガジンのコンテンツ・ディレクターとしても活躍中。