HM-2:スウェーデンのデスメタル・サウンドとその先へ

HM-2:スウェーデンのデスメタル・サウンドとその先へ

現在のスウェディッシュ・デスメタル・サウンドを定義し、その原点と言えるペダルがBOSSのHM-2 Heavy Metalです。その全貌を、スウェディッシュ・デスメタルの歴史を紐解きながら見ていきましょう。

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BOSSのHM-2 Heavy Metalのように、世界中のエクストリーム・ミュージック・シーンから熱烈な支持を集めているペダルは他にないでしょう。完璧な名前と血統を誇るこのヘヴィメタル・ペダルは、その疾風怒涛のようなサウンドで今日に至るまで新たな“信者”を獲得し続けています。1992年の製造中止から30年が経ち、「技 WAZA CRAFT」として新たな息吹を宿したHM-2Wがリリース。スウェディッシュ・デスメタル・サウンドの心臓部であり、ジャンルを超えたディストーション・ペダルであるHM-2のインサイド・ストーリーに迫ります。

Tomas SkogsbergDr.ミッド・レンジが語る

「BOSSがHM-2を再リリースするって? それは本当にクールだ。何と言ってもHM-2は私にとってのキング・オブ・ペダルだからね」スウェーデンの伝説的なプロデューサーであり、悪名高き“チェンソー・トーン”サウンドの本拠地であるサンライト・スタジオの創始者、Tomas Skogsbergは多忙なレコーディングの合間を縫って、スウェーデン最大の“輸出品”のひとつであるデス・メタルについて話し始めました。

「私はプロデューサーで、しばしば“Dr.ミッド・レンジ”と呼ばれるんだ」とSkogsbergは笑います。レコードを制作するという責任のあるミッションをこなしているのにも関わらず、彼はその成功の理由を“バンドの努力による賜物”と主張します。「すべてのプロジェクトはチーム・ワークが重要なんだ。エントゥームド(スウェーデンのバンドでスウェディッシュ・デスメタル・シーンの先駆者)のギタリストであるUffe CederlundとAlex Hellidがいなければ、この素晴らしいギター・サウンドは誕生し得なかっただろうね」

Skogsbergは、ギタリストである両者に信じられないほどの敬意を払っています。「いつだってギタリストが素晴らしいサウンドを作ってくれる。スウェデッシュ・サウンドは比較的新しいものだが、1990年代から使っているHM-2を未だに愛用しているよ。当然、何百ものバンドをこのHM-2で録音してきたんだ」

実際、1980年代初頭にSkogsbergがサンライト・スタジオを設立して以来、数え切れないバンドがこのスタジオを訪れました。サンライト・スタジオはかつての拠点であったストックホルムの都心部から、現在は首都から車で1時間ほどの距離にある明るく静かな田園地帯にあります。

サンライト・サウンドと冷酷なトーン

その名前とは裏腹に、サンライト・スタジオは音楽史上最もダークなギター・トーンを生み出す場所として知られています。スウェディッシュ・デスメタルの台頭とサンライト・スタジオとの関わりは、1980年代後半まで遡ります。当時、スウェディッシュ・デスメタルの草分けであるエントゥームドの前身バンド“ニヒリスト”が、1989年にリリースした2枚目のデモ・カセットテープ『Only Shreds Remain』を録音するためにSkogsbergに依頼。HM-2の可能性が明らかになったのは、この時のレコーディングがきっかけでした。

「ニヒリストのギタリスト/ベーシストであるLeif CuznerがHM-2をスタジオに持ち込んだ時、私にとってのデス・メタルとデス・エン・ロール(デス・メタルのサブジャンル)の始まりだった。それまでにいろいろな種類のペダルを試してきたが、HM-2に大きな感銘を受けたよ。私にとって新しいものだったし、実験をするにはもってこいのペダルだったからだ」

Sunlight Studios, Photo by Joe Matera

“それまでにいろいろな種類のペダルを試してきたが、HM-2に大きな感銘を受けたよ"
- Tomas Skogsberg

限界がイノベーションを生み出す

「最初の頃は機材がとてもシンプルだった。自前の機材を使っていたし、そうすることがクールなことだと思っていたよ。私はずっとパンク・ロックなどの音楽をレコーディングしてきたけど、当時使っていた多くの機材を今でも使っているよ」

Skogsbergは、彼らがどのようにしてその影響力のあるサウンドを手に入れたのかを雄弁に語ります。「HM-2とPeaveyのコンボ・アンプ(マイキングはAudio TechnicaのATM41)があったからこそ、あのサウンドが得られたんだ。そこには予想以上のパワーが流れていたよ」

彼はこの組み合わせが魔法のような効果をもたらしたと回想します。

「これらは運命的な組み合わせだ。さらに、音のアタックを得るためにはコンプレッションも重要だった。使用したのはYMAHAのラック・マウント型ステレオ・コンプレッサーのGC2020。世間では“チェンソー・トーン”というサウンドで親しまれているが、私にとっては“大型トラック”のような音だ」と彼は笑います。「ダウン・チューニングにして、ちょっと邪悪な音にするのが好きなんだ」

エントゥームドの軌跡

スタジオで新境地を開拓したものの、ベーシストのJohnny Hedlundが脱退。その後、彼が4大スウェディッシュ・デスメタル・バンドのひとつである“アンリーシュド”を結成したことで、ニヒリストは終焉を迎えます。創設メンバーであるドラム&マルチ・インストゥルメンタリストの Nicke Andersson、ギタリストのAlex Hellid、ギタリストのUffe Cederlund、ボーカルのLars-Göran Petrovは直ちにエントゥームドを結成しました。

1989年12月、バンドは再びサンライト・スタジオに戻り、1990年リリースの画期的なデビューLP『Left Hand Path』のレコーディングを行いました。これがまさにHM-2を用いた最初の成功例であり、サンライト・サウンドの存在を世に知らしめた決定的な事件となります。この作品は、スウェディッシュ・デスメタルの不朽の名作として語り継がれます。

その後、エントゥームドのサウンドが進化しても、HM-2は信頼できるギアとして変わらず使用されました。「1989〜90年頃、私のスタジオは安物の機材が置かれたただの部屋だった。そして、1991年に発売された2ndアルバム『Clandestine』の頃にはエントゥームドは経験を積んでいて、音楽はもう少し流れのあるものになり、グラインド・コア(デス・メタルとファストコアを融合させた、ハードコア・パンクから派生した音楽ジャンルのひとつ)ではなくなっていたんだ」

実際に2枚の作品をリリースした後、バンドは革新的な作品群をリリースします。「1993年の3枚目のアルバム『Wolverine Blues』は、よりロックンロールでクールだった。私が最も満足しているアルバムのひとつだね。アプローチは大きな転換を迎えたけどペダルは変わらなかった。人々はその音楽を“デス・エン・ロール”と呼んでいる。アンプはMarshallに変わったが、私たちはまだHM-2を使っていたんだ」

"HM-2はディスメンバーの作品に一貫して使われていて、彼らのシグネイチャー・サウンドを決定付けた"
-David Blomqvist

スウェディッシュ・デスメタルの“ビッグ4”

Skogsbergによると、1990年代初頭のストックホルムの音楽シーンは、デモ・カセットと『fanzines』(ファンが集まって評論・創作などを載せる雑誌)を生命線に、同じ志を持つ者たちが集まり、緊密なコミュニティだったと言います。当時、ストックホルムで最も人気があったバンドは、アンリーシュド、エントゥームド、グレイヴ、ディスメンバーの通称“ビッグ4”です。後者の3バンドは、いずれもキャリアの初期にサンライト・スタジオでレコーディングを行っています。「アンリーシュドとは一緒に仕事をしていないが、エントゥームドの作品と同様、ディスメンバーの最初の4枚のアルバムと、グレイヴの初期のアルバムを担当したよ」とSkogsbergは強調します。

ディスメンバーのギタリスト、David Blomqvistも「ニヒリストが初めてサンライト・スタジオでレコーディングし、そこからすべてが始まったんだ。もちろん僕らはその音源を聴いて、“これはとんでもなく素晴らしいサウンドだ”と衝撃を受けたよ。だから僕らもそこでレコーディングしたいと思ったのさ。もちろん、あのペダル(HM-2)も手に入れてね」と言い、彼らの賞賛はペダルにまで及びます。「HM-2はディスメンバーの作品に一貫して使われていて、彼らのシグネイチャー・サウンドを決定付けたんだ」

Photo by David Blomqvist

一貫した仲間 

BOSSのエフェクターは、ディスメンバーの主力機材であり続けています。「HM-2はリハーサルやギグ、そしてレコーディングの度に使ってきた。1991年の1stアルバム『Like an Everflowing Stream』で使用したアンプは、Nicke Anderssonから借りたPeaveyのコンボ・アンプStudio Pro 40だ」

リード・ギターを担当するDavid Blomqvistは、特定のアンプよりもHM-2が音作りの中枢を担うことを強調しています。「HM-2だったらどのアンプを使うか、それはあまりこだわる必要はないんだ。とにかく信じられないほど安定したサウンドが出るよ」

David Blomqvistは、このペダルであまり注目されていない側面、つまりその“多用性”に光を当てました。「HM-2の特徴は何百万ものサウンドが得られることだが、僕たちはすべてのツマミを最大に設定している。それが僕たちを証明する音なんだ。ディスメンバーのアルバムで最もその特徴を捉えているのは、4枚目の『Death Metal』(1997年)だと思う。また、EP『Pieces』(1992年)に収録されている「Pieces」という曲では、HM-2による本当に冷酷で野性的なサウンドを聴くことができる。あれはHM-2の決定的な瞬間だね」

"HM-2は今でも愛用している最高のペダルだ。究極であり理想のような存在だね"
-Niclas Engelin

ウエスト・コースト・サウンド

一方、スウェーデンの西海岸にある第2の都市“ヨーテボリ”では、まったく異なるスタイルのスウェディッシュ・デスメタルが形成されつつありました。ストックホルムのシーンと同様に、イン・フレイムス、アット・ザ・ゲイツ、ダーク・トランキュリティを含むヨーテボリのメロディック・デスメタル・シーンは、モービッド・エンジェル、オビチュアリー、デスといったバンドからなる、フロリダ初期のデスメタル・ムーブメントの影響を受けたものでした。しかし、ヨーテボリの典型的なサウンドは、デス・メタルとよりメロディックなヘヴィ・メタルを融合させることで異なるものとなっています。

このようなバンドに所属する多くのギタリストにとって、HM-2は彼らのサウンドの確立に一役買っています。「HM-2は素晴らしいペダルだと思う。今でも使っているし人気もある」とイン・フレイムスのギタリスト、Niclas Engelinは熱く語っています。「長年にわたり多くのペダルを踏んできたが、HM-2は今でも愛用している最高のペダルだ。究極であり理想のような存在だね」

"彼らは僕をマスコットのようにリハーサル室に連れて行ってくれて、そこで初めてHM-2と出会ったよ。" -Niclas Engelin

恩恵をもたらし続ける贈り物 

Niclas Engelinは、このペダルに出会った時のことをよく覚えています。「僕は本当に恵まれていた。ヨーテボリ郊外の出身で、幼少期には同じ地域の年配の方たちと一緒に過ごす機会があったんだ。彼らは僕をマスコットのようにリハーサル室に連れて行ってくれて、そこで初めてHM-2と出会ったよ。さらに使い方まで教えてくれたんだ。」

そして、地元のメタル・クルーのメンバーからプレゼントをもらったという。「クルーのうちの一人が、自分のHM-2をプレゼントしてくれたんだ。僕はただ音を出すことが好きで、1990年に初めて『Left Hand Path』を聴いた日のことを鮮明に覚えている。その後、彼らがHM-2を使っていることを知ったが本当に重厚なサウンドだった」

このようにシーンのパイオニアたちの影響を受けながら、Niclas Engelinはキャリアを切り開いていきました。「ディスメンバーとエントゥームドは、彼らのサウンド自体がアイデンティティだったからとても尊敬していたよ。同じように僕も、自分だけのサウンドとアイデンティティが欲しかった。だから、HM-2はオーバードライブのように使う傾向があったんだ」

Tom Dalgety〜オーペス、ゴースト、そしてピクシーズ〜

スウェディッシュ・メタルの巨人、オーペスとゴーストのプロデューサーであるTom Dalgetyは、黒とオレンジのエフェクターの魅力に取り憑かれました。「特に『Wolverine Blues』のようなエントゥームドのギター・トーンが好きでHM-2を使うようになりました。あの奇妙で研ぎ澄まされたサウンドは素晴らしい」と彼は語ります。

他のアーティストと同様、エントゥームドが好んでいる機材を調べたところ、彼の直感は正しかったようです。「『Left Hand Path』で彼らがどのような機材を使っているか知った時、特別驚きはしませんでした。100ワットの真空管アンプ・ヘッドでは、あのような瞬発力とアタックは得られません。では、そのトーンを手に入れるための彼独自の方程式とは何でしょう?それは、HM-2と小さなソリッドステート・コンボ・アンプから得られるダイナミック・レスポンスです。私はセラピー?(北アイルランド出身のロックバンド)のアルバム『Disquiet』のためにHM-2を手に入れました。しかし、ベースのMichael McKeeganがHM-2を集めていたので、すでにたくさんのHM-2を所有していることがわかったのです」

Tom Dalgety, Photo Courtesy of the Artist

霞がかったようなディストーションのタッチからビット・クラッシュされた狂気なサウンドまで、
他のペダルではできないことをやってのける - Tom Dalgety

オルタナティブ・メソッド

プロデューサーであり機材マニアでもあるTom Dalgetyは、エフェクターに疎いわけではありません。「BOSSのペダルはたくさん使っていますが、HM-2は霞がかったようなディストーションのタッチからビット・クラッシュされた狂気なサウンドまで、他のペダルではできないことをやってのけるのです。EQの効きは非常に過激ではありますが便利でもあります。COLOR MIX Lは、ギターの最低音にフォーカスしています。HIGHを上げると、1kHz付近のシグナルにまるでスパイクを入れるような印象になります。これは古いMarshall Plexiのような、大きな真空管アンプをスパーク・アップさせるのに効果的なのです。

これは基本的に、コンディションがベストとは言えない真空管アンプを向上させるために非常に効果的な方法で、高音域を大幅にブーストさせることができます。タイトでチャグ(鋭さと重さを兼ね備えたザクザクとした音像のこと)なギター・サウンドが欲しい時にHM-2は便利です。セミ・パラメトリックのMIDDLEは他の楽器にも有効です。EQコントロールのブーストはもちろんですが、このメタル・フレンドリーなMIDDLEは200Hzのブーミー(過度な低域)を取り除くのにベースにも最適です。私はベースをD.I.する時にHM-2を好んで使用します。クールな唸り声とストラングラーズ(イングランド出身の伝説的なパンク・ロック・バンド)のようなサウンドが加わりますが、決して過飽和で破綻しているわけではありません」

ペダルの用途を見出すのは、何もメタルだけではありません。「RAKスタジオ(ロンドンの中心部、リージェンツ・パーク近くにあるレコーディング・スタジオ)で、ピクシーズのアルバム『Head Carrier』を制作する時にHM-2を使用したのを覚えています。『Baal’s Back』という曲では、HM-2によるダーティなベース・サウンドが特に素晴らしいです。ドラムのトラックでは、ルーム・マイクやフロアのPZM(Pressure-Zone Microphone)にディストーションを加えるためにHM-2を使うこともあります」

"『Baal's Back』という曲では、HM-2によるダーティなベース・サウンドが特に素晴らしいです。" -Tom Dalgety

新たな弟子たち

今日に至るまで、HM-2の極めて多様な用途、比類のないサウンド、そして象徴的なステータスにより、ハード・ロックとメタルの世界で最も人気のあるペダルのひとつとなっています。「私はエントゥームドの大ファンだったんだ。そして、どうしたらあのギター・サウンドが得られるのか、いつも不思議に思っていたよ」と、セクトのギタリストであるJimmy Changは語ります。「それは彼らのサウンドとバンドとしてのアイデンティティの大部分であり、後にあのスウェーデンのデスメタル・サウンドを定義するのに役立った。僕にとっては謎だらけだったのを覚えているよ。彼らのトーンは、とても強烈なロー・エンドと生々しいクランチとファズを持っていた。今まで聴いたことのないようなサウンドだったんだ」

バンド・メンバーであるScott Crouseは、セクトが異なる方向に進んでいたことを指摘します。「過去の活動とはまったく異なるものにしたかったし、HM-2を使用することがその鍵だった。HM-2は、僕たちがよく知るタイトなモダン・メタル・トーンに対して、よりアグレッシブなウォール・オブ・サウンドを作り出すんだ。HM-2でしか鳴らせないリフもあるし、HM-2を使っている時は間違いなく趣向の異なる曲を書こうという気持ちにさせてくれる」

SECT, Photo by Tatsuya Okumura

"HM-2は自分が何者なのかをきちんと理解している。これこそがHM-2の真の勝利だ”
-Mike Schleibaum

Darkest Hour, Photo by Rick Cealiue

決して廃れることのないサウンド    

アメリカのメロディック・デス・メタラーでダーケスト・アワーのギタリストのMike Schleibaumは、最初に所有したペダルがHM-2だと言います。HM-2は、彼のギタリストとしての最大の目標である、完璧なディストーション・トーンを実現するために大きく貢献しました。「HM-2の全体的なスイープは、EQだけでなくゲインの面でも非常に汎用性が高いと思う。私のようにブレンド・ツールとして使う人が多い一方で、ペダルを極限まで酷使してその特質を称え、ユニークなトーンの側面を効果的に前面に押し出す人もいるんだ」

Mike Schleibaumにとって、このペダルは直感的な性質も持っています。「最終的には“Raw!”(原料のまま、手を加えないといった意味)と叫ぶようなエフェクターになったよ。もちろん、“Heavy Metal”と書かれていることも見逃せないね。」と彼は笑います。「他のペダル・メーカーがジャンルにこだわらない売り方をするのに対して、HM-2は自分が何者なのかをきちんと理解している。これこそがHM-2の真の勝利だ。HM-2の音は決して廃れることはないだろうね」

Rod Brakes

BOSSのブランド・コミュニケーションおよびコンテンツ企画担当。過去にはGuitar WorldやMusic Radar、Total Guitarを始めとする数々の音楽メディアでの執筆経験があり、アーティストや音楽業界、機材に関する幅広い知識を持つ。彼自身も生粋のミュージャンである。