BOSS FZ-1W Fuzzの内部構造

BOSS FZ-1W Fuzzの内部構造

BOSSのFZ-1W Fuzzは、1960年代のヴィンテージ・ファズ・サウンドをBOSS独自の解釈で現代に蘇らせた全く新しいペダルです。ここでは、その誕生秘話をご紹介します。

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「技WAZA CRAFT」シリーズに新たなペダルが加わるという情報が発信されると、ギタリストはいつも少年の様に心を躍らせています。彼らを魅了しているこの「技 WAZA CRAFT」は、厳選されたアナログ・パーツ、洗練された回路、細部へのこだわりを追求したコンパクト・ペダルで、今までの「技WAZA CRAFT」は全て、BOSSのラインナップとして存在している、またはDC-2のように過去に存在していた製品を元にブラッシュアップしたモデルがリリースされてきました。中にはHM-2W Heavy Metalのように熱狂的なファンからの熱い要望を受けて復活するモデルもあります。しかし FZ-1W Fuzzは、違います。元となるモデルは存在せず、1960年代のヴィンテージ・サウンドをBOSS独自の視点で解釈し、現代のプレイヤー向けて再構築した、まったく新しいペダルです。FZ-1Wがどのように誕生したのか、その経緯を見ていきましょう。

ファズの歴史  

BOSSは、もはやディストーション/オーバードライブの代名詞です。 SD-1 SUPER OverDriveやOD-1 OverDriveのようなクラシカルな名機から、 HM-2 Heavy Metalや MT-2 Metal Zoneのような攻撃的なモンスター・ペダルまで、ドライブ・ペダルの歴史を語る上で外すことのできないモデルが多数存在します。ファズは実にユニークなペダルですが、BOSSのブランド・イメージに結びつく人はあまり多くはなかったでしょう。しかし、BOSSは時に“沼”とまで言われるファズの魅力を知らないわけではありません。FZ-2 HYPER Fuzz、FZ-3 Fuzz、そしてFZ-5 Fuzzなど、BOSS独自のテクノロジーで再現に挑戦し続けてきました。今までBOSSのファズに見向きもしなかったファズ・マニア達を唸らせたのは、間違いなく TB-2W Tone Benderのデビューでした。

“ヴィンテージ・ファズの回路やTone Benderのサウンドを幾度となく研究しました。私たちは、夢のヴィンテージ・サウンドを作りたかったのです” -池上 嘉宏

FZ-1W は、FZシリーズの特徴であるシルバー・カラーの筐体ですが、共通点はそれだけではありません。「FZ-2はジャパニーズ・ヴィンテージ・ファズのようなサウンドでした。FZ-1Wでは、Tone Benderのようなルーツと違うものを作ろうと考えていたのです」と、BOSSカンパニー社長の池上嘉宏氏は言います。

FZ-1Wの開発

限定生産されたTB-2Wは、BOSSにとって画期的なコラボレーションでした。「Sola Soundとのコラボレーションは、熱い思いを感じることができました」と池上氏は振り返ります。「Anthony Macariから多くのことを学び、大きな影響を受けたプロジェクトでした。彼の熱いパッションに背中を押され、このタイミングでFZ-1Wを作ろうと思ったのです」

TB-2Wを作り上げ、そこで得た教訓をFZ-1Wに活かすためにはリサーチが重要な役割を果たしました。「私達はTone Bender MK IIだけでなく、様々なビンテージ・ファズの回路や挙動、サウンドを徹底的に研究しました。何としてでも理想的なヴィンテージ・サウンドを作りたかったのです」と池上氏は明かします。その過去への畏敬の念は、FZ-1W本体にも表れています。ロックギターのサウンドを形成したクラシックな回路へのリスペクトを込めて、モデル名に“1”を付けています。

"私達はTone Bender MK IIだけでなく、様々なビンテージ・ファズの回路や挙動、サウンドを徹底的に研究しました。何としてでも理想的なヴィンテージ・サウンドを作りたかったのです" -池上 嘉宏

TB-2Wは数量限定生産モデルだったこともあり、世界中のファズ・ファンが殺到。入手は困難を極め、ユーザーはTB-2Wを手に入れるために多くの時間と労力を費やすことになります。もちろん池上氏は、この状況に満足していませんでした。「TB-2Wは3000台ほどしか出荷していないため、今回こそは熱望するユーザーの手元に届けたいと思っていたのです」

BOSSが最終的に目指したのは、ゲインを上げ、ノイズを減らし、独自のトーンを形作るパワーを持ったファズを作ることでした。FZ-1Wは、これらの目標を達成するためにいくつかの革新的な技術を導入しています。

シリコン・ファズの安定性について

ギタリストがBOSSの製品を高く評価するのは、その優れた耐久性と安定性にあります。ファズにおいては、シリコンとゲルマニウム、どちらのトランジスタも魅力的な音質を持っていますが、今回そのどちらを選ぶのかは明らかでした。FZ-1Wは、安定した生産ラインと品質を保つために、ゲルマニウム・トランジスタではなくシリコンを採用しています。「ゲルマニウム・トランジスタで回路を作ろうとしたのですが、シリコン・トランジスタのほうが音色もレスポンスも安定していました」と池上氏は説明します。音質面でのメリットもありました。「ゲルマニウムはゲインが低く、シリコンのほうが遥かにゲインは高いのです。これは大きな差でした」

“ゲルマニウム・トランジスタは温度と電池電圧で音が変化。シリコンは安定していて大量生産にも向いています” -池上 嘉宏

ヴィンテージ・ペダルの場合、どんな環境や操作条件においても、確実な音色とレスポンスを提供するのは容易なことではありません。池上氏は、この問題について次のように言及します。「ゲルマニウム・トランジスタは、外気温や電池の電圧で音が変わってしまいます。その点、シリコン・トランジスタは安定性が高く、大量生産にも向いているのです」

モードの問題

「技WAZA CRAFT」のペダルの多くは、スタンダード・モードとカスタム・モードを切り替える“モード・スイッチ”を備えていますが、FZ-1Wはその常識を覆すものでした。池上氏は、本機の構成をこう説明します。「FZ-1Wにはヴィンテージ(V)とモダン(M)の2つのモードがあります。ヴィンテージ・モードは非常にヴィンテージ・ライクなサウンドを提供しますが、モダン・モードはよりハイ・ゲインなサウンドを出力します」。FZ-1Wのヴィンテージ・モードは、池上氏が言うところの“本格的なファズ・トーン”で、表現力の幅が広いのが特徴です。

また、FZ-1Wは回路が安定しているため、ヴィンテージ・モード、モダン・モードともに低ノイズで安定した動作が可能です。「入力信号に対する感度が非常に高いため、プレイヤーはよりダイナミックな表現が可能です。それは、良い楽器にとってとても重要なポイントなのです」(池上氏)

“入力信号に対する感度が非常に高いため、プレイヤーはよりダイナミックな表現が可能” -池上 嘉宏

トーンの特徴とコツ

また、FZ-1WのTONEツマミは、選択したモードに応じて最適なチューニングが施されていることも見逃せません。「ヴィンテージ・モードとモダン・モードでは、それぞれTONEの動きが異なります。モダン・モードは中音域のキャラクターを失わずに、高音域と低音域を同時にコントロールすることができます。

モダン・モードはよりハイ・ゲインなファズです。その中音域は、現代の音楽スタイルに適した、より大胆でパワフルなトーンを提供します」。池上氏は、開発の過程で発見したスイート・スポットをいくつか動画で紹介しています。「FUZZツマミを3時方向に回すと、非常にリッチなディストーションが得られます。また、ギター側のボリュームを絞れば、クリスピーでフラットなクリーン・サウンドが得られます」。

ファズの未来

Z-1Wは、「技WAZA CRAFT」の新たな1ページを開いたことは間違いありません。このペダルは、ファズの表現力を限界まで引き出すことを目的としており、ファズ特有の欠点は一切ありません。それは、プレイアビリティに関わることでもある、と池上氏は話します。「良いファズは、時にプリアンプのような働きをします。ファズ特有の歪みが得られることだけが魅力という訳ではありません。ヴィンテージ・モードとモダン・モードは、どちらも入力音量に対する感度が鍵となっているのです。ピッキング・ニュアンスやボリューム操作でゲインをスムーズに変化させることができることこそが、最大の魅力なのです」。

“良いファズは時にプリアンプのような働きをします。繋いだだけで、いきなり歪むわけではありません。”
-池上 嘉宏

池上氏は過去の歴史を踏まえつつも、BOSSのファズが未来を見据えた1台であると確信しています。「ヴィンテージ・ファズとその使い方を学び、ヴィンテージを再定義することにしました」。池上氏は、その結果に誇りを持っています。『海外版Talk with BOSS』では、TONEツマミの設定やファズの歴史など詳しく説明。「自信を持ってFZ-1Wをおすすめします」と笑顔で語っています。

Designing the FZ-1W

BOSSのエンジニアへインタビュー

FZ-1Wの開発で苦労した点は何ですか?

BOSS: ヴィンテージ・ファズのエッセンスを損なわないような回路設計が課題でした。ヴィンテージの回路を現代のパーツで再現した場合、必ずしもベストな結果が得られるとは限りませんから。

音楽的、技術的なインスピレーションの源はどこから来るのでしょうか。

BOSS: TB-2Wの開発は、FZ-1Wの開発に影響を与える大きな契機となりました。BOSSは本物のTone Benderが持つ、魔法のような効果を目の当たりにすることで、なぜヴィンテージ・ファズが50年以上にわたって愛され続けているのかを理解したのです。ヴィンテージ・ファズのニュアンスやフィーリングを、現代に活かすことを後押ししてくれました。

FZ-1Wには、スタンダードとカスタムの代わりにヴィンテージ・モードとモダン・モードがあります。これらのモードは、どのような経緯で開発されたのでしょうか?

BOSS: シリコン・トランジスタに触発されて、ファズの可能性をさらに追求することにしました。まずは、ヴィンテージ・ファズの要素を凝縮した“ヴィンテージ・モード”を開発することに注力し、“モダン・モード”ではより高いゲインなど、シリコン・トランジスタの特性を生かすことができました。

FZ-1WのTONEは、中音域を変えずに音色の明るさを強調できる、ユニークかつレスポンスに優れたツマミですね。これはどのようにして生まれたのでしょうか?

BOSS: 一般的に、ファズには強い高周波の特性が含まれています。そのため、ギターやアンプとの組み合わせによっては、時に耳障りな音になってしまうことがあります。このペダルにはTONEコントロールが不可欠であり、どんな環境にも対応できる汎用性の高いものにしたいと考えました。

各モードの音色のスイート・スポットを邪魔しないように、理想的なセッティングを見つける作業を繰り返しました。ヴィンテージ・モードとモダン・モードでは、チューニングや挙動が全く異なります。

FZ-1Wの開発過程で驚いたことはありますか?

BOSS: ヴィンテージ・ファズ・ペダルを数多く試しました。同じモデルでも、弾き心地やレスポンス、ギターのボリューム・ツマミへの反応など個体差が大きいのです。また、室温や電圧がサウンドに影響を与えるというのは、ファズ・ファンの間ではよく聞く話です。いいセッティングを見つけても、翌朝には変更せざるを得ないことも多々あるんですよ。

また、ヴィンテージ・ファズはペダルのコンディションを保つことが難しいですが、FZ-1Wはいつでもどこでも常にベストな状態で使うことができます。これは、現代の使い方では大きなアドバンテージですね。

Ari Rosenschein

ローランドのグローバル・コンテンツ・マネジャー。妻と愛犬と共に、シアトルで生活。豊かな自然とコーヒーを満喫している。