MT-2でヘヴィ・メタルの歴史を知ろう

MT-2でヘヴィ・メタルの歴史を知ろう

MT-2 Metal Zoneは、自宅練習に勤しむプレイヤーの相棒としてミリオン・セラーを超えるペダルです。ロック・バンドのBiffy ClyroのSimon Neilや、ConvergeのKurt Ballouが、どのようにそのエクストリームなトーンを活用しているのかご紹介します。

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MT-2 Metal Zoneはハイゲイン・ペダルの象徴であり、ディストーションにおける業界標準です。BOSSコンパクト・ペダルの累計販売台数1,700万台のうち、DS-1 Distortionに次いで第2位のセールスを誇ります。1991年に発売されたメタル・ゾーンは、2021年で生産開始から30周年を迎え、販売台数100万台という大台を突破しました。100万台ものメタル・ゾーンを想像してみてください。端から端まで並べると、約130キロメートルにおよぶ“メタル・ロード”が出来上がります。

伸び続ける道

しかし、その道はさらに伸び続けています。新世代のギタリストたちもまたMT-2の特徴的なサウンドを探し求めているのです。その独特の音色とレスポンスに魅了されるギタリストは後を絶ちません。同時に、MT-2の品質はBOSSのエンジニアが堅守し続けてきたのです。

フレキシブルなEQとハイゲイン・ディストーションで知られるMT-2は、常に需要の高いBOSSペダルです。メタル・ゾーンはそのモデル名に反し、長年にわたり多様な音楽、アーティストたちに愛用されてきました。Prince、SparklehorseのMark Linkousから、KornのMunkyやMegadethのDave Mustaineなどのメタルギタリストまで、いかに幅広いアーティストが使用しているかがわかるでしょう。

Munky of KORN, Photo by Sven Mandel

"100万台ものメタル・ゾーンを想像してみてください。端から端まで並べると、約130キロメートルにおよぶ“メタル・ロード”が出来上がります。"

Kurt Ballou, Photo by Grywnn

Kurt Ballouとの対話と収束

そして、ハード・コアの雄“Converge”のギタリスト、Kurt Ballouのようなユーザーもいます。Ballouは、Hign on Fire、Torche、Genghis Tronといったアーティストのプロデューサーとしても引っ張りだこです。アメリカ・マサチューセッツ州にあるGodCity Studioを拠点に活動するBallouは、「メタル・ゾーンを長い間所有しているが、かなりワイルドなペダルだ。とても過激なEQで、すぐさま夢中になれるんだ」と語っています。

Ballouは、自分のバンドで使ったサウンドの“トリック”について詳しく教えてくれました。「Convergeでは出力を上げ、歪みを抑えてEQをフラットに設定し、古い真空管アンプをプッシュするために一時的に使用していたんだ。それでも透明なトーンとは程遠いけどね」Ballouのような鋭い耳を持つプレイヤーにとっては、音色の面でもメリットがあります。

「プリエンファシスEQが常に存在し、ロー・ゲインでもクリアさとハーモニクスを加えることができるんだ。最近では、真空管マイク・プリアンプに直接接続して、4トラックのダークなトーンを得るために使用することがほとんどだね」GodCity Studioにおいて、MT-2の使用は特別で意図的なものです。「頻繁に使用するわけではないけれど、他のペダルでは代用できないんだ」

"プレエンファシスEQが常に存在し、ロー・ゲインでもクリアさとハーモニクスを加えることができるんだ。" -Kurt Ballou

Biffy Clyroでメタルを彫る

3人組のハード・ロック・バンド“Biffy Clyro”のフロントマン兼ギタリストとして敬愛されているSimon Neil。彼も同様に、“メタル・ゾーンは音作りの選択肢に入れる価値がある”と認めています。リハーサル・スタジオからアリーナ・ステージまで、MT-2は長年にわたり彼の武器として不可欠なコンポーネントとなっています。

Simon Neilのセットアップをサポートするのは、長年のギター・テックであるRichard Prattです。Biffy Clyroは、数え切れないほどのギグやレコーディング・セッションで鍛え上げられた独自のサウンドを有しています。Pratt氏は、メタル・ゾーンがギタリストにとっていかに重要であるかを知っています。

「SimonはよくBOSSのBOSSのペダルを好んで購入します。MT-2を改造したペダルを使おうとしたこともありましたが、使い慣れたペダルとは音が違うから彼は“ダメだ”と言うのです。確かに、Simonは純正のペダルを好んで使います。誰でも買えるような普通のMT-2でなければならないのです」

経験豊富なローディーでもあるPratt氏は、MT-2の信頼性を高く評価しています。「MT-2は非常に価値があり、長年にわたり安定した性能を発揮してくれます。メタル・ゾーンはギター・テックから見ても素晴らしい製品で、他のどのペダルよりも堅牢で頑丈なのです。そして、1台1台に個体差も存在しないんだ」Pratt氏は、彼のオーナーであるSimon Neilと同様、このモデルの一貫性を賞賛しています。

Simon Neil of Biffy Clyro, Photo by Stefan Brending

"MT-2は非常に価値があり、長年にわたり安定した性能を発揮してくれます。メタル・ゾーンはギター・テックから見ても素晴らしい製品で、他のどのペダルよりも堅牢で頑丈なのです" -Richard Pratt (Biffiy Clyro ギター・テック)

Simon Neil of Biffy Clyro, Photo by Antje Naumann

EQとスーパー・サチュレーション

MT-2はその超飽和的な歪みサウンドで高い評価を得ていますが、このタイプのペダルの中で最もダイナミックなモデルのひとつであることでも有名で、それは高度なEQコントロールに起因します。メタル・ゾーンのイコライザー・セクションは、HIGH、LOW、MIDDLEの3つのセクションから構成されています。

HIGHとLOWでは、トップ・エンドとボトム・エンドの周波数を独立して15dBまでカットまたはブーストすることが可能です。また、MIDDLEは200Hz~5KHzの範囲で周波数を調節可能です。このように幅広い音色が用意されているため、ユーザーはさまざまなサウンドを楽しむことができます。ちょっとしたコツで、自分だけのディストーション・セッティングが可能なのです。

スクープ・スペック

「SimonはLEVELを3時に、DISTは半分強にセットしています」とPratt氏は明かします。「LOWは3時、HIGHは12時、MIDDLEレンジのツマミは10時まで戻しています。LOWをブーストし音に厚みを与えます。大きくシリアスで、スクープ(中音域が下がる)されたディストーション・サウンドです」

Pratt氏は、これらのEQがどのように機能するかについて自身の考えを持っています。「この歪みは、ペダルのデュアル・クリッピング・デザイン(アンプ・クリッピングとダイオード・クリッピングの組み合わせ)からきています。この回路によって、プリとポスト・ディストーションの両方のトーン・シェイピングが可能です」

Simon Neil's Pedalboard, Photo Courtesy of Richard Pratt

"Biffy Clyroにとって、MT-2のトーンを“再発明”するのではなくそれを“受け入れる”ことが重要なのです"

BOSS Metal Zone Simon Neil Biffy Clyro
Simon Neil's Metal Zone Collection
Photo Courtesy of Richard Pratt

モノの形

MT-2がBiffy Clyroの武器として欠かせない理由は、その音作りのしやすさにもあります。「クリッピング/ディストーション前のトーン・シェイピングは、1KHz付近で中音域の“コブ”を少し与えてくれます。その後、100Hzと5KHzにピークを作り中域をカットします。一度何かを歪ませると、中音域をプッシュするのが非常に難しくなることがあるため、これは素晴らしいアイデアです」とPratt氏は述べています。

Biffy Clyroにとって、MT-2のトーンを“再発明”するのではなくそれを“受け入れる”ことが重要なのです。「SimonがMT-2を気に入っているのは、本物のアナログ・ペダルだからです。それがメタル・ゾーンの基本的なキャラクターを担っています。デジタル・ディストーションはたくさんありますが、彼はそれらを使っても、ギターとキャビネットの間で同じようなレスポンスが得られないことに気づいています」

ウォール・オブ・サウンド

3台のアンプを使用し、それぞれに特徴的な音色を持たせることで、Simon Neilはバランスの取れた強力なサウンドを作り上げることができます。「まるでギター・コーラスのようです」とPratt氏は言います。「彼は真ん中でFenderアンプをクリーンで鳴らしているから、常に音程を拾うことができます。」彼らはまた、ディストーションの中音域を埋めるためのAudio KitchenのThe Big Trees(プリアンプ)も所有しています。

このブティック・アンプについてPratt氏は「クランクしているが透明感があり、Marshall 1959SLPを通したメタル・ゾーンであらゆる周波数をカバーしているんだ」

それでも、歪み過ぎる心配はありません。「メタル・ゾーンが完全に飽和してしまうという心配はほとんどありません。それはウォール・オブ・サウンドのようなもので、3ピース・バンドとは思えない強大なサウンドを実現しているのです」Pratt氏は、1本のギターと3台のアンプがよりラウドに聴こえるよう、フロントでパンニングさせることが重要だと感じています。

Simon Neil of Biffy Clyro, Photo by Batiste Safont

"メタル・ゾーンが完全に飽和してしまうという心配はほとんどありません。それはウォール・オブ・サウンドのようなもので、3ピース・バンドとは思えない強大なサウンドを実現しているのです" -Richard Pratt (Biffiy Clyro ギター・テック)

MT-2は“ギター合唱”の一部

さらにPratt氏は、よりミッド・フォーカスな歪みを得るためにメタル・ゾーンを使用するプレイヤーもいると明かします。それに対してSimon Neilは、「トップの躍動感とロー・エンドの重さでMarshallアンプをプッシュするのが好きなんだ。MT-2はこの処理に見事に対応している。僕はトップとボトム・エンドが大好きで、FenderやAudio KitchenのアンプがやらないことをMT-2が全部やってくれる。これらは全てギター・アンサンブルの一部なんだ」

知識豊富なギター・テック技たちは、Simon Neilのメタル・ゾーンの設定がアンプのサウンドにフィットしていると考えています。「基本的には、EQを使って調整しています。そのバランスを取るのは大変ですが、今はアリーナで演奏することも多いから、より簡単で安定した演奏ができるようになりました。」これは、バンドの成功に伴うもうひとつの戦利品です。「一方で、ライブハウスでは部屋の響きに翻弄されることが多いのです。」

適切なアンプ

ディストーションは、使用するアンプによって効果に大きな差が生まれます。同じペダルのセッティングでも、アンプによって結果が大きく変わるからです。「MT-2はゲインが高いので、充分なヘッド・ルームを持つアンプでなければ使えません。そうでないと、中音域が少し盛り上がり過ぎたようなサウンドになってしまうのです」とPratt氏は強調します。

また、ボリュームもMT-2の音色を変える要因のひとつです。このため、Simon Neilは100ワットのMarshall 1959 Super Leadリイシューにこだわっています。Pratt氏は、メタル・ゾーンのゲインジャンプを処理できるだけでなく、ロー・エンドのレスポンスも高く評価しています。

「サウンドを余すことなくスピーカーに伝えることができるのです。私たちは、MT-2を4×12のキャビネットと一緒に使うことが多いですね。そうしないと、Simonのギターとスピーカーの間でレスポンスが得られないのです。相互作用があるからこそ上手くいくのです。メタル・ゾーンと4×12のキャビネットとの組み合わせでステージに立つと、まるで別世界のようです」

Mark Piknous of Sparklehorse, Photo by Leigh Righton

"メタル・ゾーンと4×12キャビネットの組み合わせでステージに立つと、まるで別世界のようです” -Richard Pratt (Biffiy Clyro ギター・テック)

Simon Neil of Biffy Clyro, Photo by Anthony Abbott

プレイヤーズ・チョイス

Simon Neilがストラトキャスターを演奏しているのは有名な話です。しかし、彼がMT-2で放つサウンドは、ハムバッカー搭載のギターにも劣らない圧倒的な迫力です。

「彼は主にFenderのTexas Specialピックアップと、Fender Custom Shopの60年代スタイルのセットを使っています。Texas Specialはオーバー・ワウンドのため中域が強調されますが、メタル・ゾーンで大きなゲインを稼いでいるため、ピックアップの微妙な違いは無視できるほど小さいのです」

Simon Neilのセットアップには、もう1つ重要なペダルがあります。コンプレッサーを接続の一番前に置いて、ストラトを弾き倒している時にサウンドを落ち着かせるようにしているのです。

黄金律に従う

Pratt氏はある曲を例に挙げます。「That Golden Rule」のようにゲートのかかったチャギーな音(鋭さと重さが共存したザクザクとした音像)になる瞬間、BOSSのNS-2 Noise Suppressorを1台フル稼働させています。これは、ギターが拾っているであろうハムノイズを除去するためのものです。Simon Neilは、弦から手を離した時にフィード・バックを発生させることを望んでいるため、オンにしたままにはしないのだと説明しています。

「NS-2を使用するのは特別な目的がある時だけです。セットの中で2〜3回ほどオンにしますが、例外もあります。時々、舞台袖のペダル・ボードからノイズ・サプレッサーのスイッチを入れるのです。彼がオフにするのを忘れていたら、僕が代わりにオフにすることもあります」

Dave Mustaine of Megadeth, Photo by Mario

メタル・ゾーン+ボリューム

MT-2を使ったトラッキングについて、Pratt氏は経験に基づくいくつかのヒントを挙げています。「メタル・ゾーンを高級なマイクで録音すると、ほとんどの場合は音量が大きすぎて苦労します。リボン・マイクのようなものは全滅してしまうんだ」と彼は言います。

バンドは、メタル・ゾーンを最高の音で鳴らすにはボリュームが必要であることを発見しました。「通常、私たちは極めて高い音量レベルに対応できよう標準的なダイナミック・マイクを使用しています」

"MT-2Wのカスタム・モードは、タイトでフォーカスされた現代的なトーンを作り出す"

ストンプ・ボックスの成層圏

「近年、プレイヤーたちがストンプ・ボックスに回帰しているのは素晴らしいことです」とPratt氏は言います。彼の考えでは「プラグインなどのデジタル・モデリングは確かにペダルの役割を担っています。

しかし、画面上のメニューを経由せず、自分でペダル自体を操作して音を出すことは何よりも最高です。ギタリストはただ音量を上げたり下げたりするだけではすぐに飽きてしまうのです。」

Simon NeilはBiffy Clyroで、ペダルを踏んだり、ノブを操作するという実体験を重視しています。「メタル・ゾーンがなくなることはないでしょう」と、Pratt氏は確信を持って言います。

現代の多くのギタリストがMT-2の独特の歪みを頼りにしているため、BOSSもMT-2を引退させる予定はないでしょう。その証拠に、2018年にメタル・ゾーンは「技 WAZA CRAFT」ラインの仲間入りを果たしました。MT-2Wとして生まれ変わったのです。MT-2は相変わらずの人気を誇りながら、技 WAZA CRAFT版も同時発売。

MT-2の特徴はそのままに、2つのモードで機能をより強化しています。スタンダード・モードでは、より低いノイズ・フロアを実現しクリアかつノイズの少ないトーンを追求。カスタム・モードでは、タイトでフォーカスされた現代的な音色をより幅広く再現します。

MT-2はハイゲイン・ペダルの象徴であり、ディストーションにおける業界標準です。 少なくともあと30年は、さらなる世代のギタリストにインスピレーションを与え続けることでしょう。

Rod Brakes

BOSSのブランド・コミュニケーションおよびコンテンツ企画担当。過去にはGuitar WorldやMusic Radar、Total Guitarを始めとする数々の音楽メディアでの執筆経験があり、アーティストや音楽業界、機材に関する幅広い知識を持つ。彼自身も生粋のミュージャンである。